
異語り 165 継続中
コトガタリ 165 ケイゾクチュウ
40代 女性
昔通っていた中学校には七不思議があった。
定番のトイレの花子さんと音楽室のピアノ。
それ以外にも聞いたことがあるようなのが二つ。
そしてたぶんうちの学校独自っぽい図書室のシミと言う話。
全部で5コしかないのに七不思議なのもあるあるかな?
花子さんとピアノは噂でしか聞いたことがないし、他は怖がりたいだけのような脅かし系の怪談。
でも、その中で図書室のシミだけは体験者も多く、私も見たことがあった。
【図書室の一番奥にあるとある本棚の前に、気がつくと大きな染みが浮かび上がる】
というもの。
実際にはカーペット敷の床が濡れてシミになっているというものだ。
大抵は先生が見つけてすぐに処理されてしまう。
私が見た時も、雑巾や新聞紙などが床に置かれているところだった。
ただ、その図書室というのが大きな北向きの窓がたくさんあるのに、どこが暗く空気も淀んでいるように感じられる部屋だったので、ちょっとした不思議もすぐに怖い話に仕立て上げられたのかも知れない。
七不思議としても、ただ床にシミができるというだけで何か害があるという話は聞いたことはない。
(本にとっては湿気は大きな害だったかもしれない)
そして今年なんと、我が子がその母校に入学した。
私としては懐かしくもあり、機会を見つけては学校へ足を運ぶようにしていた。
ある日、図書室の整備作業のお手伝いに訪れた。
図書室は私の頃とは変わらない場所にあった。
今では旧校舎と呼ばれる古い校舎は全てが懐かしさの塊
ちょっと開いたまま閉まりきらないトイレのドア。
誰がつけたのかわからない天井についた上履きの足跡。
本当に懐かしい
少しウキウキした気分で図書室のドアを開け、そして驚いた。
壁を塗り直したのか、床がビニール素材になったおかげか、記憶の中の図書室より数倍明るく綺麗になっていた。
ひょっとしてもう七不思議もなくなっているのかも知れない。
そう思えてしまうくらい印象が違っていた。
和やかな活動のあと、少し図書室を見学させてもらうことにした。
本棚は昔のままだが、おそらく生徒が作ったと思われるカラフルなポップがあちこちに付けられとても楽しげな雰囲気になっている。
並んでいる本を眺めながら、ずんずんと奥へ進んでいった。
ビチャ
嫌な感触にすぐさま足を引っ込めた。
だが湿り気を帯びたスリッパがその瞬間すっぽ抜ける。
「うわっ」
「あっ」
思わず上げた声に、少し離れていた先生が慌てて駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫ですか」
「あーはい、なんだかここが濡れてたみたいで」
「えっいやだ、またなの」
小さな声だったか聞き取れた。
「え?」
「あっ」
思わず見つめた視線に気まずいに苦笑いを返される。
「すみません。気をつけているんですけどここだけしょっちゅう水がこぼれているんですよね。窓も開けてないし、雨漏りでもないらしいんですけど」
先生はそう言いながらすぐにモップを取りに駆けていった。
部屋は明るく綺麗になったが、どうやら七不思議は健在らしい。
カーペットではなくなったせいで、水たまりができるようだ。
「誰かのイタズラなんですかね?
でも校内に防犯カメラとか使えないらしくて、現行犯を見つけなきゃ駄目なんですよ」
先生は今年赴任してきたばかりらしい。
何年か勤めている先生ならば、きっと七不思議も知っているだろうに教えてあげないのだろうか?
ひょっとしたらまだ若い先生だから怖がらせないために話していないのかな?
その日は私も何も言わずに帰宅した。
子どもに七不思議の事を伝えておけばそのうち伝わるのかな?
でもうちの子どもも怖がりだからこの手の話は聞いてくれない 。
そもそも、【シミができる】と言う結果だけが伝わっていて、その原因となった悲劇や不幸は語られていなかった。
私が知らなかっただけ?
今も継続中なら何かしら話が伝わっているかも?
聞いて見たいな。
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