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異語り 166 赤いセーター

コトガタリ 166 アカイセーター

30代 女性 

だいぶ寒くなってきた頃、娘が見慣れないセーターを着ていた。
真っ赤なセーターで袖口と裾に細めの白いラインが入っている。
とてもかわいいのだが、私はそのセーターを買ったことも着せたことも記憶にない。
「暖かそうだねそのセーターどうしたの?」
驚かせないように聞いて見た。
「かわいーでしょ? 冬の箱の中に入ってたよ」

普段は触らないクローゼットの奥に、家族の衣装ケースがしまってある。
そろそろ出そうかと思っていたがまさか先に開けられるとは

さぞかし盛大にやらかされているのだろうと覚悟してクローゼットを開けると、衣装ケースはきちんと積み上がったままだった。
「あれ? どこからだしたんだろう?」

そもそもケースには去年着ていたまだ着れそうな物をしまっている。
あんなセーターはしまった記憶はない。

娘は箱に入っていたと言っていたのだから誰かからもらったり着せられた訳ではないと思う。
幼稚園から持ってきてしまったのかも?
もう一度娘に聞いて見る。

「お家の箱に入ってたの? 幼稚園でみつけたの?」
「お部屋にあった箱だよ」
得意げに案内してくれる。
部屋と言ってもまだ一緒に寝ているので子ども部屋にはおもちゃしか置いていない。
娘はおもちゃの入った箱を順番に眺めながら首を傾げた。
「あれ? 箱がなくなっちゃった」
「箱には他にも冬の服が入ってたの?」
「うん、いっぱいあった! でもこれが一番かわいかった」

他の服のことはあまりおぼえていなさそうだった。

娘が着ているセーターに手を伸ばし少し触ってみる。
ごわついた固めの毛糸の感触
着るとチクチクするやつだ。

自分は昔チクチクが嫌でセーターを着なかった。
こんなの絶対自分じゃ買わないよ。
しかも新品というわけでもなさそうだ。

そのままセーターの裾をまくりタグを探す
『ウール100%』
そうだろうと思っていた。

そのタグの裏にうっすらと線が残っているのに気がついた。
……名前かな?

でも、誰かからお下がりをもらったという記憶はない。
フリマを利用した記憶もない。
ましてこんな派手なセーターならよく覚えているだろう。

赤いセーター、

赤いセーター、

どこかで見たような気がしないでもないように思えてきた。

やはりお下がりでももらった?
いやでももっと前だったような、……自分が着てた?


まだ幼稚園に上がる前の頃、姉のお下がりのセーターを「チクチクするから着ない」とすぐに脱ぎしてたことがある。
これはあの時のか?
いやでもこんなに派手ではなかったと思う。

あの時の私のセーターは淡いピンク色だった。
そして赤いセーターは……姉が着ていた。



昔の記憶が一気によみがえってくる。

実は私には年子の姉がいた。
過去形なのは姉が既に亡くなっているから。
小学校に入ってすぐ病を患い、あっという間に旅立ってしまった。

年子だから喧嘩もいっぱいしたけれど、一緒に遊んだ記憶もいっぱいある。
入院してからはあまりお見舞いに連れて行ってもらえなかったから、姉が亡くなってもしばらくは実感もなかった。
何度も母に姉のことを尋ねて泣かせてしまった。


姉の事は忘れてはいないけれど、最近は忙しくてあまり思い出すこともなかった。
姉は今の娘ぐらいの歳に亡くなったのか。
そう思い至りとても切なくなった。
ちゃんとお別れもできなかったな


でも、なぜ娘が姉のセーターを着ているのだろう?

「ねえ、ママ。ちょっと痒くなってきた」
見ると首回りや手首が赤く腫れてきている。

「そのセーターがチクチクするんじゃない? もう脱いだら?」
娘はちょっと渋りながらもどうにかセーターを脱いでくれた。

そういえば入院する前の姉も首が赤くなるくらい掻いていたような気がする。

まさかこのセーターのせいで姉は……



さすがにそれはないだろうと思ったが、もう娘には着せたくない。

娘と相談した結果
そのセーターはお気に入りのぬいぐるみに着せることにした。
サイズ感もちょうど良く家族から好評だ。

リビングのソファーに居座るようになったぬいぐるみ。
皆に声をかけられ幸せそうにしている。
もしかしたら姉も喜んでくれているだろうか?

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異語り 夏瓜(かか)
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