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異語り 140 お土産

コトガタリ 140 オミヤゲ

40代   男性

修学旅行の楽しみの一つは、お土産選びだと思うんです。
特に小中学生の頃はまとまった金額を手にする機会も少ないから変にテンションが上がっちゃって、奇妙なおみやげを選んだりしがちなんだろうなぁと思います。

この歳になってそのことに気がついたというか、気がつかされたというか……。


先日、娘が修学旅行に行きまして、じいちゃんやばあちゃんだけじゃなく親にもお土産を買ってきてくれたんです。
「お菓子でいいよ」と言っておいたのですが、そこは妙なテンションでそれぞれに選びたくなったらしいです。

じいちゃんとばあちゃんにはおそろいのお箸。
自分用には友達とお揃いの可愛らしいフワフワしたキーホルダー。
そして妻には草木染めのハンカチ。
私にはボールペン。
そこまではなかなかセンスあるチョイスだと感心したんです。

でも、なぜだか余ったお小遣いで「家に飾ろうと思って」と片手を上げた猿らしき置物を買ってきたんです。
高さは10㎝ほどの木彫の猿で、頭にぱやぱやと毛が生えています。
目はまん丸でかわいらしいのですが、猿らしくするためか顔や手に掘られたしわが微妙にリアルで……手放しに可愛いとは言いづらい人形でした。

「招き猿だよ、幸せを呼んでくれるんだって」
「そうなんだ。……じゃあ玄関にでも飾ろうか」
「うん。飾ってくる」
いそいそと猿を抱えてリビングを出ていく娘。

でも、どうやら妻も私と同じ感想だったようです。
何とも言えない苦笑いを浮かべて首をかしげると娘の後を追って玄関へ出て行きました。


さて、その夜から玄関にサルが鎮座することとなったのですが、
なんというか……存在感がすごいんです。

我が家の玄関には入ってすぐのところにちょっとしたスペースがあります。
いつもはそこに写真立てやら芳香剤なんか置いているのですが、そのセンターに猿が入ったんです。


朝はバタバタしていて気が付かなかったのですが、帰宅した時に圧がすごいんです。

扉を開けた瞬間に何かに押し戻されるような気分になるんです。
何事?! と思い中を見ると猿と目が合う。
「何だこいつか」と思い直してやっと家に入る。
みたいな感じでした。

そう感じていたのは私だけではなかったようで、1週間もしないうちに猿はリビングのテレビの横へ移動していました。

でも、今度はリビングの居心地が悪くなる。
玄関で感じた程の圧はないものの、なんとなく視線を感じるのです。
もちろんあの猿です。
真っ黒でまん丸な、ただのペンキで書かれた目が異常に気になるのです。


その後、サルは二三日ごとに居場所を変え、
やっと落ち着いた今はリビングの窓から外を眺めています。

窓の向こうは道路ではなく、すぐ隣家の壁です。
なのでほとんど見ることも開けることもない窓です。


こちらを向いていないからか、我が家の雰囲気もやっと平常に感じられるようになりました。


ただ、最近隣家が空き家になってしまいました。

……もしかしたら?

とは思うのですが確認のしようもないですし、
猿にはまだそのまま隣を眺めてもらっています。


あれはきっと招くものではなく、厄除けなんだと思いますよ。
それも強力なタイプのね。

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異語り 夏瓜(かか)
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