異語り　131　山に住むモノ

コトガタリ　131　ヤマニスムモノ

５０代　男性

久しぶりに家族でスキーに行った帰り道、妻と子どもたちは車に乗り込むとすぐに眠ってしまった。
雪の積もる細い山道をゆっくり安全運転で下って行く。
たっぷり遊んできたので日は既に山陰にかかり、木立の影が濃くなってきていた。
白と黒だけのモノクロの景色が続く。

ドーン

ズドーン

遠くで地鳴りのような音が聞こえた。
今日は少し気温が高かったから雪崩でも起こったのだろうか？　道路に崩れてこなければいいが……

ズシーン

ズズーン

５００ｍほど下の木立が大きく揺れるのが見えた。

あーあの辺なら大丈夫か？

一応より注意深くハンドルを握り車を慎重に進める。

ドーン

ドーン

先程よりも少しこちら側（斜面の上）の木が立て続けに揺れるのが見えた。

まるで山を登ってきてるような感じだ。

……うん？　雪崩は下に向かうのでは？

ズズーン

ドーン

ズドーン

揺れる木は徐々に山肌を登ってきている。

一体何が起こっているのか？　
このままでは登ってくる進路に入ってしまう。
登ってきているのなら雪崩ではないはず、でも
もしも雪崩だったら……

一瞬のうちに頭を高速回転させ、車を止めることにした。

ドーン

キーンッ　ズドーン

車を止めたことにより音もよく聞こえるようになった。

地鳴りに紛れて金属バットのような音も混じっている。

キーンッ　ドーン

キーン　　ドドーン

予想した進路は３０ｍほど先のはず。
幸い後続車も対向車もいない。
予想が少しくらいズレても後退して避けることもできると思う。

ハンドルを握りしめたまま、地鳴りが通り過ぎるのを待つ。
耳元で響く自分の鼓動がびっくりするくらい速い。

カキーン　ズシーン

キーン　ドシーン

大きくなった地鳴りのせいで、窓がビリビリと震えている。

キーン　ズドーン

カキーン　ズドーン

くる！

車道の両脇には除雪された雪が積み上がっているが、それでも幅は４メートル以上ある。

もしかしたら道路で止まるかも？

チラリとよぎった希望的願望ふき飛ばすかのように、
巨大な黒い塊が２０ｍほど先の空中に現れた。

影の濃くなった木々と同じような闇を纏っている。
ずんぐりとした丸い物体の上に太い杭のようなものが２本突き出していた。
それがまるで宙を滑るかのように道路の上を横切っていく。

対岸が近づくと下半分がニョキリと前へ伸び、くの字のようになって木々の間へと消えた。

ガキンッズドドドーン

カキーン　ズズーン

道路脇の木が大きく揺れ、積もっていた雪がまとめて放り出された。
そして地響きとともに崩れ落ち雪煙を上げた。

ほんの一瞬の出来事だったはずだが、スローモーションのように脳裏にあの物体が残っている。
シルエットは巨大な猿
でも、質感はどこかヌラッとした艶を感じた。
巨大な……おたまじゃく……みたいな

妻と子供たちは眠ったままだった。

あの音が十分に遠くなり、自分の鼓動が落ち着くのを待ってゆっくりと車を発車させた。

帰宅後、妻と子どもたちにこの話をしたけれど、みんな信じてはくれなかった。