【企業分析】Roche Holding AG (エフ・ホフマン・ラ・ロシュ)
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概要
スイスのバーゼルに本拠を置く世界的な製薬・ヘルスケア企業である。スイス証券取引所上場企業(SIX: ROG)。
1896年に創業し、2021年に創立125周年を迎えた世界有数のバイオテックカンパニーです。 医薬品と診断薬・機器事業をビジネスの主軸とし、健康・予防・診断・治療・予後のすべてのステージにおいて、医療従事者の皆さまと患者さんが最適な治療選択や意思決定をできるよう支援しています。
エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社はフリッツ・ホフマン・ラ・ロシュによって1896年に創業された。その後ロシュ社はビタミン剤の生産で基盤を築いた。
1957年にはベンゾジアゼピン系抗不安薬クロルジアゼポキシド(商品名「リプリウム」、日本における商品名「バランス」)を、続いて抗不安薬の世界標準となるジアゼパム(商品名「ヴァリウム」、日本における商品名「セルシン」)を開発・発売し、世界の抗不安薬市場を席巻し多くの利益を得た。
1990年代以降は抗癌剤に注力を始めている。またインフルエンザ治療薬オセルタミビルの特許を持つ米ギリアド・サイエンシズ社より1996年から2016年までの製造専売特許を取得し、「タミフル」の商品名で2000年代の主力商品となっている。
今では、欧州を中心にグローバルで9万人以上の従業員を抱えます。2018年の製薬会社売上ランキングではファイザー、ノバルティスを差し置いてトップでした。年間売上高は日本円で6兆円超です。
グローバルでビジネスを展開しています。スイス本社ですが米国での売上がもっとも大きく全体の約4割を占めます。欧州、日本がそれに続きます。他アジア、アフリカ諸国でも事業を行っています。日本市場はロシュにとって重要領域で中外製薬と提携しています。中外製薬はロシュの連結子会社でもあります。
プロダクト・ビジネスモデル
同社は2つの事業区分により構成される。医薬品事業はRoche医薬品とChugai(中外製薬)を含む。診断事業は糖尿病ケア、分子診断、専門診断及び組織診断という4つの分野を含む。
同社は腫瘍学、免疫学、感染症、眼科学と神経科学を含む各種疾患分野のための医薬品の開発を行う。
医薬品はアナプロスト、アバスチン、バクトリム、ボンドロナット、セルシプト、コテルテラック、ダイトラント、ドルミカム、インビラーゼ、カドシルラ、キトリル(ケバトリル)、ラリアム、マブテラ、マドパール、ニューポージェン、ペガシス、ペルジェータ、プルモザイム、ロカルトロール、ロセフィン及びロフェロンAを含む。同社は細胞分析、遺伝子発現、ゲノム配列決定、核酸精製等の研究者向けの製品を提供する。
事業セグメントは大きく以下の2つに分かれています。
・Pharmaceuticals(医薬品)
・Diagnostics(診断)
医薬と診断における長年の知識と経験から、2006年に個別化医療をグループ戦略の中核に据えました。
従来から行われている治療法では、診断された病気が同じであれば、同じ治療薬が投与されてきました。例えば、がんの治療では、「肺がん」と診断されれば、肺がんの治療薬が、「乳がん」と診断されれば、乳がんの治療薬というようにがんの種類にあわせて治療薬が投与されてきました。しかしながら、同じ病気と診断された患者さんの中でも、実際には遺伝子や蛋白などの分子の違いにより様々なタイプの患者さんがいることがわかってきました。そして、この違いが治療の効果や副作用に大きく影響していたこともわかってきたのです。
このことから、患者さんごとの病気や病態を決定づけている要因を事前に調べて、効果のある薬を投与して病気を治したり病態を改善したりすることができるようになってきています。
こうした「患者さんのタイプにあわせて最適な治療法を選択すること」を個別化医療と言い、現在、主にがん領域において実施されています。
さらに、ロシュはデジタル技術を活用し、患者さんの臨床データや最新の研究結果などを統合・分析することによる治療方針決定のサポートを推進していきます。そして個別化をさらに進めた「患者さん一人ひとりにあわせた最も効果的な治療」の実現を目指します。
研究開発費
個別化医療を推進していくためにも、そして今いる患者さんを1人でも健康に近づけていくためにも、ロシュは研究開発費を惜しみません。研究開発費は世界の上場ヘルスケア企業中 1位、全世界・全産業で10位以内となっています(Strategy & Global Innovation 1000, Winter 2017)。
こうして製品のパイプラインを強化するための投資を継続的に続けていけることが、世界の医療発展に大きく寄与しているのです。そして毎年のようにリリースされる新試薬、新製品を持って私たちは日本で医療に貢献していくのです。(※研究開発拠点は医薬・診断薬を合わせ、世界に30カ所あり、診断薬の開発は日本では行っておりません。)
医薬品部門
医薬品部門の売上が全体の約8割を占めます。コア営業利益率は43%と超高収益です。オンコロジー領域(がん治療)に強みがあります。抗がん剤の「リツキサン」や「パーセプチン」、「パージェタ」が主力製品。
卓越したサイエンスを患者に有効な医薬品に変換することに注力しています。ロシュ社における最先端の研究を結集しています。
ロシュ社、ジェネンテック社(米国)、中外製薬社(日本)、および世界各国の250を超えるパートナー企業における最先端の研究と、臨床開発、製造、商業運営におけるグローバルな規模とリーチを融合させています。
医薬品部門の幅広いポートフォリオにより、ロシュは臨床的に差別化された医薬品を提供する世界的なリーディングカンパニーのひとつとなっています。
イノベーションへの注力
医薬品事業は、科学的な発明が真に患者の命を救い、改善する製品につながることを生きた形で証明しています。
卓越した科学における感動的な伝統は、1世紀以上前にさかのぼります。現在も当時と同様、戦略の根底には、優れた科学技術を育成し、科学者がライフサイエンスの分野で明日を変えるブレークスルーを生み出す力を与えることがあります。
がん、免疫、眼科、感染症、神経科学、希少疾病に焦点を当て、人々の苦しみを軽減し、より長く健康な生活を送るために、科学を治療法に転換する大きな可能性を信じています。
同社は、疾患生物学に対する広範かつ深い理解、医薬品と診断薬のシームレスな統合、イノベーションを最大化するための多様なアプローチ、そして長期的な志向性を持っています。
世界有数のバイオテクノロジー企業
がんは、先進国において依然として死因の第2位であり、その罹患率は増加傾向にあります。しかし、早期に発見されれば、多くの場合、効果的に治療することができます。同社は、50年以上にわたり、がんの研究と治療の最前線に立ち続けています。医薬品は、乳房、皮膚、卵巣、肺がん、その他多くのがんを治療します。患者に、生きるための時間という最も大切なものを与えるのです。
診断部門
売上の約2割を占める診断部門では、病気の早期発見や治療方針の策定に役立つソリューションを提供しています。具体的には、生化学・免疫検査、遺伝子検査、血液凝固検査などを行う機器を製造販売しています。日本事業法人として、ロシュ・ダイアグノスティクス(株)があります。
臨床検査は、病気を早期に発見する、どのような病気か調べる、治療方針を決める、そして治療効果や予後のモニタリングをするという、さまざまな医療の場で重要な役割を担っています。
効率的な検査
より迅速でより正確な検査は、患者の最適な治療につながるだけでなく、患者さんや検査に携わる方々の負担を軽減し、医療費の削減に貢献します。
医学的価値ある検査
未だ満たされていない医療ニーズに対応する、医学的に価値の高い検査を追求し、医療に貢献します。
これら2つの価値を主軸に、良きパートナーとして、検査に関わるソリューションを提供し続けています。
検査の統合 「Integration」という新しいソリューション
ロシュが提案するのは、検査室の「統合」です。
さまざまな自動分析装置、検体前処理装置、そして検体後処理装置を専用の検体搬送ラインとソフトウエアを用いてつなぎ、システム全体を「統合」します。
システムの統合によって、オペレーションはさらに簡略化され、それに伴いマニュアル作業は削減されます。検体投入口は一本化され、作業導線がシンプルになります。専用のソフトウエアは医療機関の検査情報システムと連携し、検体管理、品質チェック、測定結果、そして使用後の検体保管など検査に関わるデータの一元管理が可能です。
「統合」という新しいソリューションで、検査業務全体の効率化とともに検査の質の向上に貢献します。 検査室を次のステージに。私たちは、これからも新しいソリューションの提供に挑戦してきます。
臨床検査関連製品
生化学・免疫検査
生化学・免疫検査では、ご施設の環境やニーズに合わせて最適な組み合わせを提案する、モジュールアッセンブリシステムを採用しています。生化学分析モジュールと免疫分析モジュールを組み合わせる統合型分析装置は、多項目、多検体を迅速かつ高い処理能力で測定し、検査室の効率化をサポートしています。
生化学検査では、POCT(ポイント・オブ・ケア・テスティング)用の小型医療機器も取り扱っています。ベッドサイドや診療所・薬局(検体測定室)、または救命救急の現場(ER /ICU)など求められる検査をタイムリーに、簡便に、高い精度で測定可能です。早期診断、治療に寄与します。
遺伝子検査
世界的な核酸増幅技術、PCRテクノロジーを応用した全自動核酸抽出・増幅・検出装置で、感染症やがんの診断、治療法の選定や効果予測などに用いられています。分析装置は遺伝子混入対策の徹底により、生化学・免疫検査と同一の検査室に設置できるようになりました。検査業務の効率化を図ることができます。
また、がん領域では、国内初となる血漿検体(リキッドバイオプシー)による検査キットを導入するなど、これまでにない検査の提供を通じて、患者さんの治療アクセス改善に貢献しています。
検体前処理/後処理装置・検体自動搬送ライン・制御IT
検体を扱う検査室では、全工程の業務量のうち検査前処理工程は高い割合をしめています。弊社の検体前処理装置は、より高い次元のオートメーションを実現し、開栓・分注・仕分・閉栓を行うほか、遠心、検体冷蔵保存、自動再検機能のユニットが追加でき、また分析装置に検体を自動搬送することも可能です。検体の量および品質をチェックするタイプでは、高感度カメラおよびレーザーを用いて検査に不適切な検体を判別、前処理段階で選別することができます。この一連の動きをコントロールし、より効率的に行わせるための制御ITもあります。
血液凝固検査
血液は通常、血管内で固まることはなくスムーズに流れていますが、血管損傷すると、血液を体外に流出しないように、血液を固める血液凝固系が働きます。また何らかの要因により血管内で血液が固まった場合、その血栓を溶かすために線溶系が働きます。凝固線溶系のバランスを機器/試薬のご提供を通じて、正確に把握することに貢献します。
病理学的検査
病理学的検査は、がんの研究・診断・治療に欠かすことのできない検査として、創薬やライフサイエンス研究との連携、病理診断、がん等の治療方針決定に用いられています。当社ではこれら領域をカバーする製品を取り扱っています。特に、コンパニオン診断薬では、特定のがん治療薬の効果が見込める患者の早期診断、早期治療に貢献しています。また遠隔医療を支援するデジタルパソロジーシステムも取り扱っています。
液状化細胞診システムでは、風圧を利用した塗抹原理により、細胞の重積や偏りを抑え、最適な標本作成をサポートしています。
シークエンシング関連
次世代シークエンシング用の検体前処理装置や、前処理試薬、データ解析ソリューションなどを取り扱っています。
診断(意思決定)支援
がんの組織を用いて、多数の遺伝子を同時に調べ、遺伝子変異を明らかにすることにより一人ひとりの体質や病状に合わせて治療などを行うのが、がんゲノム医療です。そのがんゲノム医療におけるエキスパートパネル(専門家会議)での協議に必要な各種情報を一元管理し、より適切な治療方針決定を効率的にサポートするクラウド型ソリューションを提供しています。
ソフトウエアに入力した個々の患者さんの状態、ゲノム変化をもとに、公開されている臨床試験データベースから該当する臨床試験をすぐに検索することができます。また、がんゲノム医療専門家チームが必要な最新の知見も得ることができます。
市場動向
世界の医薬品市場
世界の医薬品市場の売上は、2021年、全体で1兆4,235億ドル(日本円にすると、約157兆円)に上ります。地域別で見ると、一番大きい市場はアメリカで、世界の約40%を占めています。次に、欧州5カ国、中国と続き、日本は第4位、市場規模は約9.4兆円です。アメリカは、企業が薬の値段を自由に決めることが出来ます。一方、日本を含めた多くの国では、薬の価格(薬価)は行政機関によって決められます。
上位4地域の2017年から2021年の年平均成長率が最も大きいのが中国で、日本は、ほぼ横ばいでした。
がん治療薬の市場
将来の世界の医薬品市場を治療領域別にみると、2026年の市場規模予測が最も大きい治療領域は、がん領域で40兆円を超える規模にまで拡大すると見込まれています。がん領域は、医療が進歩する中にあっても、いまだ満たされていない医療ニーズが高く、革新的な医薬品の創薬が望まれていることから、 2022年から2026年までの年平均成長率は9%~12%と、医薬品市場の成長を牽引すると見込まれています。
治療領域別での市場規模予測と成長率予測
Globocan 2020ファクトシートによると、世界中で推定19,292,789の新しい癌の症例が診断され、世界中で約9,958,133の癌による死亡がありました。さらに、国際がん研究機関(IARC)の推定によると、2040年までに、がんの世界的な負担は、世界中で2,750万人の新規がん症例と1,630万人の死亡にまで拡大すると予想されています。癌の発生率の増加は、患者の効果的な治療のための高度な癌治療の必要性を駆り立てると予想されます。
業績
売上高の推移
FY2020(2020年1-12月期)の売上高は603億スイスフランと、前年度比▲5.3%、過去5年間で年率+3.7%となりました。
セグメント別の売上高は、以下の通りです。
・製薬部門:124億ドル、前年同期比+4%
・診断部門:48億ドル、前年同期比+48%
セグメント別の売上高構成比は、製薬部門が72%、診断部門が28%を占めます。
製薬部門のサブセグメント別の売上高構成比は、がん等の治療薬が51%、免疫が18%、神経精神疾患が11%、その他が18%、特許等が3%が7%を占めます。
プロダクト別の売上高構成比は、アバスチン(がん治療薬)が11%、オクレリズマブ(多発性硬化症治療薬)が10%、パージェタ(乳がん治療薬)が9%、ハーセプチン(がん治療薬)が8%を占めます。
地域別の売上高構成比は、欧州が24%、北米が48%、アジアが22%、その他が6%を占めます。
利益の推移
FY2020の営業利益は185億スイスフランと、前年度比+5.7%、過去5年間で年率+6.1%となりました。
営業利益率は30.7%と、前年度の27.5%から改善しました。
FY2020の調整後EPSは19.16スイスフランと、前年度比▲5.0%、過去5年間で年率+7.3%となりました。
キャッシュフローの推移
FY2020の営業キャッシュフローは186億スイスフランと、前年度比▲17.1%、過去5年間で年率+4.0%となりました。
営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は30.8%と、前年度の35.1%から悪化しました。
FY2020のフリーキャッシュフローは119億スイスフランと、前年度比▲32.1%、過去5年間で年率+1.3%となりました。
フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は19.7%と、前年度の27.4%から悪化しました。
株主還元(配当、自社株買い)の推移
自社株買いの実施はなしです
(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)
FY2020の調整後益利回り(PERの逆数)は6.2%、フリーキャッシュフロー利回りは4.4%です。
FY2020の配当利回りは2.9%です。
バランスシートを見てみましょう。流動資産4割、固定資産6割という資産構成。流動資産の中身はキャッシュ、売掛金、在庫といった運転資本です。固定資産は工場や機械等の有形固定資産が半分で、もう半分がのれんや無形資産です。
配当はこの10年は年率6%のペースで増えてきました。緩やかながらしっかり増配しています。配当性向は70%前後でやや高めです。ただし、自社株買いをほとんど実施していないため、配当性向が高く算出されている面があります。株主還元の90%近くが配当です。
経営者
創業者
創業者はフリッツ・ホフマン=ラ・ロシュ( 1868年 - 1920年)。
1868年、スイス・バーゼルに生まれる。
裕福な商人の一家に生まれ、フリッツも早くから雇用者および投資の経験を積んだ。フリッツは起業前は、銀行、薬や化学薬品の業者、および薬の貿易業者のもとで働いた。
1894年、彼はマックス・カール・トラウブと共に医薬品用の化学薬品の製造を行うトラウブ商会を設立する。ホフマンの父親が資本の過半数を出資し、トラウブはいくつかの特許契約を得る。
1896年、トラウブが会社を去ったのを機に社名をエフ・ホフマン・ラ・ロシュに改称する。
Peyerによると「フリッツ・ホフマンは商品の販促に非常に関心を持ち」、単なる広告からパッケージに至る宣伝の全ての側面や、および薬剤師などの販売戦略上重要な立場の人々への販促に注意を払っていた。フリッツはまた、原料および製品の販売、研究支援に関して、国際的なつながりを築き上げていった。第一次世界大戦による挫折の後、これらの要素が会社の復活と拡大を助けることとなった。
1919年、病気を理由に会社の取締役を引退し、翌1920年に死去した。
CEO
ロシュ・グループのCEOは、セヴリン・シュヴァン(1967年〜)。1993年に研修生として入社し、以来、同社に在籍している。
中外製薬株式会社では取締役を務め、国際製薬団体連合会(IFPMA)の副会長、上海市長の国際ビジネスリーダー諮問委員会のメンバーでもあります。また、クレディ・スイス(シュヴァイツ)AGの取締役も務めています。
インスブルック大学、ヨーク大学、オックスフォード大学で経済学の学位、インスブルック大学で法学の学位取得。(1991年、インスブルック大学で法学博士号取得 ベルギーのルーヴァン大学で研究 博士号取得(1993年、インスブルック)。(1993年、インスブルック)オーストリア国籍。
新CEO
ロシュは2022年7月21の取締役会で、次期ロシュグループCEOに現ロシュ・ダイアグノスティックスCEOのトーマス・シネッカー氏を充てる人事を決定した。就任は2023年3月15日付。
株価推移
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