【企業分析】Xometry(ゾメトリー)
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概要
アメリカのメリーランド州ゲティスバーグに本社を置く、製造業オンラインマーケットプレイス運営会社です。2013年にRandy Altshuler氏とLaurence Zuriff氏が共同創業しました。
ミッションは、「To accelerate innovation by providing real time, equitable access to global manufacturing capacity and demand.」(グローバルな製造能力と需要へのリアルタイムかつ公平なアクセスを提供し、イノベーションを加速する。)となっています。
このマーケットプレイスを通じて世界の製造工場と提携して、部品調達、金型の製作、工具ツールの開発などをしたいクライアント(メーカー企業)との仲介を行っています。クライアントには大手の自動車、家電メーカーなども加わり、新製品の量産に必要な部品や材料の発注をしています。
日本でも、ミスミ・ラクスル・キャディなど、集約(受注)と分散(発注)を組み合わせたマッチングプラットフォームビジネスは、注目されています。調べていくと、Xometryは、ビジネスモデル・成長の軌跡ともに、お手本となるようなスタートアップです。
プロダクト・ビジネスモデル
Xometryは新たに部品調達や金型の製作、工具ツールの開発などをしたいメーカーと提携工場とのマッチングを行うマーケットプレイスを提供しています。
具体的には、メーカーは製造したい部品の仕様書を専用サイトからアップロードすると、AIが、対応可能な提携工場を探し、見積書をWeb画面上に提示します。
メーカーがその条件に納得すれば、1クリックで部品の生産が開始される流れとなります。
BMWやNASAをはじめとする43,000を超えるBuyer(顧客)を抱え、Seller(製造提携メーカー)は5,000以上となっており、創業以来、600万点を超える部品がXometryのプラットフォームを通じて製造されてきました。
大手のメーカー企業は常に同じ提携工場を使うのではなく、最新の技術や設備を導入している工場や安価に引き受けてくれる製造元を世界中から探して、発注したいと常々思っています。
しかし、新規取引先の開拓には、信用状況や技術レベルを企業自身で個々に調査する必要があり、信頼できる工場を探すまでに手間と時間が掛かります。この問題を解決しているのが、「Xometry」になります。
Xometryを使うことで、大手メーカー企業は手間と時間を掛けることなく、製造元を探すことができ、逆に中小の製造業者でも優れた技術を持っていれば、世界のメーカーと付加価値の高いが取引できるチャンスが生まれることになります。
2013年から様々な機能をプラットフォームに追加し、売上は右肩上がりに推移しています。
Buyerが製造したい部品の仕様書を専用サイトからアップロードすると、Xometryのプラットホーム上でAIアルゴリズムが働き、部品の形状や性能から、対応可能な工場の余剰生産力を分析して、見積書がWeb画面上に提示されます。
Buyer側が実際にオーダーを行うとSellerに注文を出し、生産を始め、製品が届けられるという流れになります。
Sellerは、CNC製造、板金製造、3Dプリンティング、板金製造、ダイカスト、射出成形、ウレタン鋳造など、幅広い主要製造プロセスを提供しています。
そして上記プロセスと50を超える仕上げ、およびXometryが提供する何千もの原材料と色のパターンを組み合わせることができます。
一部Sellerに対してのプロダクトも最近リリースしています。
2019年にXometrySuppliesをリリースしており、こちらではSellerが製品を製造するための原料を販売するサプライヤーへのアクセスを手助けしています。
サプライヤーにから原料の値引きを受けたりすることができ、Sellerは製造コストを下げることが出来ます。
さらに2020年にはSellerがキャッシュフローに関して管理ができるようにFinancial関係のプロダクトをリリースしています。
前払金の最大30%を借りることが出来る「Xometry Advance Card」や、製造完了後3営業日以内に支払いを受け取ることができる「FastPay」(通常は製品をBuyerが受け取った後60日とか90日後が実際の支払です。)、Invoiceの自動発行といったサービスあるとのことです。
Seller向けのプロダクトはSellerの40%が現在利用しているようです。
ビジネスモデル
Xometryのビジネスモデルは、MaaS(Manufacturing as a Service)と表現されることがあります。Xometryのオンラインマーケットプレイスを利用した顧客は、必要な時に、必要な分だけ、部品を発注することができます。
顧客は、まず購入したい部品の3D CADデータを、Xometryのオンライン見積もりエンジンにアップロードします。そして、製造プロセス、素材(例えば、アルミニウム・銅・プラスチック・etc)、仕上げ処理など、いくつかの条件を選択。
すると、数分後、見積もり価格が提示されます。Xometryは、顧客の注文を、アルゴリズムが最適かつ製造可能と判断したサプライヤーパートナーに転送し、パートナーは注文を受け入れるかどうか決定します。
サプライヤーパートナーは、これまで得られなかったような顧客からの注文をマーケットプレイス上で受注でき、自社設備のダウンタイムを回避し、製造キャパシティを最大限活用できるようになります。
また、Xometryは、サプライヤーパートナー同士の交流を促進するような支援もしており、パートナー会社はネットワークに参加することで、経営改善のtipsを入手したり、新しいツールの情報を得たり、営業機会だけでないメリットを得ることができます。
BuyerはFortune 500(アメリカ企業の売上上位500社)の約30%を含む、43,000社以上を抱えています。
BuyerにはBMWやNASA、ワクチン開発のModerna、ロケットベンチャーのABL Space Systemsなどが名を連ねています。S-1にはこれら企業が載っていましたが、HPに行くとGEやBOSCH、Dellなんかも載っていました。
そして43,000社のうち1年以内にXometryのプラットホーム上で注文、購入を行ったActive Buyerは2021年3月31日時点で24,160に達し、2020年3月31日時点の13,195から83%増加しています。
Buyerが最初にXometryのプラットホーム上で製品を購入した年に基づいて、年を定義したコホートは以下のようになっており、一度購入を行ったBuyerは年々購入量を増やして、Xometryの売上に貢献していることがわかります。
非常に綺麗な図になっています。
工場を持たないオンライン製造業の仲介プラットフォーム
製造業の作業工程がデジタル化していく中では、大手のメーカー企業は常に同じ提携工場(下請け業者)を使うのではなく、最新の技術や設備を導入している工場を世界中から探して、仕事を発注できるようになります。
一方、地方の中小製造業者でも優れた技術を持っていれば、世界のメーカーと付加価値の高いが取引できるチャンスがあります。
しかし、新規取引先の開拓には、信用状況や技術レベルを個々に調査する必要があり、信頼できる工場を探すまでに手間と時間がかかってしまいます。この問題を解決しているのが、同社なのです。
Xometryの事業は、CNC加工、板金加工、ウレタン成形、3Dプリントによるプラスチックや金属素材の積層造形などができる中小工場を、米国内外で5000社以上ネットワーク化しており、業態としては、新たな部品調達、金型の製作、工具ツールの開発などをしたいクライアント(メーカー企業)と提携工場とのマッチングを行うマーケットプレイスですが、Xometry自体が世界的なオンライン製造業者としてのポジションを築き始めています。
Xometryがネットワーク化している工場は、保有設備の生産能力、技術品質、機密保持などの項目で信頼性の高い業者を審査、承認することにより、提携先が限定されています。
クライアントは、製造したい部品の仕様書(3Dデータ)を専用サイトからアップロードすると、AIアルゴリズムが、部品の形状や性能から、対応可能な工場の余剰生産力を分析して、適正価格を自動算定した見積書をWeb画面上に提示します。
クライアントがその条件に納得すれば、1クリックで部品の生産が開始される流れとなる。納品される部品にはXometryが独自の保証制度を付けることで、一定の品質レベルが保たれているのです。
メーカー企業は、Xometryのネットワークを利用することで、部品調達のリードタイムとコストを、それぞれ2~3割削減することが可能で、大手の自動車メーカー、家電メーカー、NASAなどがクライアントになっています。
たとえば、BMWでは、新型車を生産するのに必要な工具の製作でXometryを利用しており、試作を繰り返しながら、車両の各組み立て工程で生産効率の高いオリジナル工具を開発しています。
Xometryのビジネスモデルは、AIアルゴリズムが算定した見積価格から、適正なマージン収入を得ることと、部品の製造に必要な材料を工場側に販売することを収益源にしています。
Xometryからの材料購入は強制ではないが、提携工場では、部品の受注が確定した段階で、材料を調達する方式のため、無駄な在庫を抱えることなく、オンデマンド型の部品製造を手掛けることができます。
市場動向
続いてXometryが事業を展開している市場について見ていきます。
Sellerの6つの主要な製造プロセスの推定市場規模に基づいて、世界の市場機会は$260 billion(約29兆円)を超えるとXometryは推定しています。
なお、Xometryの売上は2020年に$141million(約155億円)ほどです。売上は製品への手数料なのでそれを考慮する必要がありますが、超巨大な市場が広がっていると言えると思います。
S-1にはこれくらいしか書かれていません。
これだけでは少し寂しいので製造業のDXについても見てみます。
企業やメーカーが直面する独自の課題、テクノロジーの革新により、製造業界はデジタル変革(DX)の転換点に到達したと言われています。
実際私が勤めている頭の固そうな旧財閥系のオールドエコノミーですらDXに取り組み始め、一部そういった仕事を企画で行っている私も日々悪戦苦闘しています。笑
以下のような記事もあり、コロナ禍でDXは製造業でも加速し、製造業の全体DXではありますが、今後も年率約20%で成長していき製造業のDX市場は29兆円から84兆円へと拡大する見込みとなっています。
業績
続いてXometryの業績内容について見ていきたいと思います。
20年のRevenue(売上)は$141Million(約155億円)、Gross profit(粗利)は$33Million(36億円)、Net loss(損失)は$31Million(約34億円)の赤字となっています。
粗利率は23.5%ほどです。
19年の売上は$80Million、Gross profit(粗利)は$14Million、Net loss(損失)は$31Million(約34億円)の赤字だったため売上は+76%の成長、粗利は+120%の成長となります。
粗利率は低いですが改善傾向なのはいいなと思います。
21年の3月までの決算も載っていたのでそちらも見てみます。
21年1QのRevenue(売上)は$44Million、Gross profit(粗利)は10Million、Net loss(損失)は$11Millionの赤字となっています。
20年1Qの売上は$27Million、Gross profit(粗利)は$5Million、Net loss(損失)は$9Millionの赤字だったため売上は+65%の成長、粗利は+83%の成長となります。
営業キャッシュフローはまだマイナスです。
経営者
創業者兼CEOのAltschuler氏は、ドイツ文学を専攻したプリンストン大学在学時、料理人やキャンパスの警備員として働いたそうです。卒業後、ウィーン大学でフルブライト奨学生(国が認めた奨学金対象者)として研究し、その後、ハーバードビジネススクールでMBAを取得。
MBA取得後の1999年、彼はOffice Tigerという会社を興しました。Office Tigerは、業界特化のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービスを提供。ホワイトワーカーが行うようなハイエンド業務を、賃金がそれほど高くない国にアウトソースする支援をしました。
その次に創業したのがCloudblueです。Cloudblueのビジネスが、Xometry創業に影響を与えているように思います。2008年に誕生したCloudblueは、あらゆるソフトウェアをクラウド上で利用することができるプラットフォームを展開。クラウドサービス大手Amazon Web Serviceの誕生が2006年なので、まだクラウドサービスが始まって間もない時期です。
Cloudblueは、特定のSaaSを提供するのではなく、あくまでサードパーティとして、ベンダーが効率的に顧客を見つけられるプラットフォームを作りました。ベンダーをクラウド上に集めるモデルは、Xometryに近いものがあります。
Cloudblueは順調に成長し、2013年にIngram Microという会社が買収しています。その次に作ったのがXometryです。
余談ですが、Altschuler氏は、2010年と2012年に、ニューヨーク州議会第1区の、共和党下院議員候補として活動しました。
共同創業者のZuriff氏は、ブラウン大学卒業後、ジョンズホプキンス大学で経済学修士号を取得。その後、10年ほどファンドを転々とし、アナリストやポートフォリオマネジャーとして活動しました。2009年からは、Altschuler氏の選挙対策チームに入って、財務責任者を務めています。
2013年にXometryを共同創業し、現在はCSO(Chief Strategic Officer)を担っています。
株価推移
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