半導体関連株の下落が引き起こす日本株市場への影響
日本株の急落の第二波は、少なくとも9月のFOMCの利下げまでしばらく続きそうだ。ISM製造業景気指数は、半導体売上の微妙な変化を反映しているから注意が必要だ。
潜在的にはAI需要は強いが、すでにその期待が膨らんでいて、不透明感に過剰に反応するのだろう。日本株もそれに敏感に動かされる。まだ数ヶ月間は予断を許さない。
日米連動性
日本株下落の第二波は、まだ不安定な状態で収束していない。日本株の下落は、米国株の急落と連鎖したものだが、よくみると米国のフィラデルフィア半導体株価指数の下落に強い連動性を示している(図表1)。
日本株は、半導体株と化しているという声も聞く。確かに、半導体関連の銘柄を集めた日経半導体株指数というインデックスは、日経平均株価と極めて相関が高い(図表2)。日経平均株価が半導体株と化している説には否定しにくいところがある。
現在、日米株価は不安定化しているのに、世界の半導体需要はまだ衰える兆候はみられないように思える。AIブームはまだまだ続き、潜在的成長力は大きいようにも思える。
しかし、もしかすると、私たちがみているの統計データは過去のものである可能性はある。まだハードデータでは捉え切れていない需要の変調を株価下落は示している可能性もある。
8月初と9月初に米株価が急落したのは、ISM製造業景気指数が悪化したからである。このISM製造業景気指数も微妙に半導体需要の動向を反映している。
WSTS(世界半導体市場統計)の世界半導体売上の前年比は、このISM製造業景気指数の前年比とも微妙に連動してきた経緯がある(図表3)。だから、まだ半導体統計には表れてきていない情報を先取りしている可能性には注意すべきだ。日本の株価もその影響を色濃く受けて、さらに変動していくだろう。
AIブームをどうみるか
日米株価ともに、その変動におけるマグニフィセント7と呼ばれる中の複数のハイテク銘柄の影響力が強い。それらは、GPUなどAI用半導体、クラウド事業の需要拡大を背景に収益力を高めている。
2022年以降、チャットGPTは次々に革新的な機能拡充を遂げていて、世界中を魅了してきた。潜在的なAI需要が強いとすれば、米国の半導体株価は上昇を続け、日本株もそれに連動して上がっていきそうな気がする。
しかし、8・9月初とそうした感覚に反して株価が急落した。これは、潜在的需要の強さとは別の要因があるかもしれない。それは、米半導体株価が強気の予想でが押し上げられて、割高なレベルまで買われていたが、こにきてその強気予想が狂い始めたからだろう。
強気の予想を狂わせたのは、①すでに高値がついて高所恐怖症になったこと、②米経済指標の悪化、の両面がある。半導体需要が独立的に強いと思えても、マクロ経済の影響からは免れられないということだ。
今後も米株価の高値が継続するためには、米経済が高成長することが条件になる。特に、ISM製造業景気指数は、ハイテク需要の代理変数でもあるので、今後数ヶ月はその変化に一喜一憂することだろう。
もうひとつ、株価が上昇基調に転じるチャンスがあるとすれば、9月17・18日のFOMCだ。そこで利下げが行われて、そこで発表される政策金利の見通しで先々の利下げ予想が強まれば、株価を下支えしてくれると期待したい。
それでも、景気後退リスクは根強く残るだろうから、2024年内の複数回の利下げが効果を及んでくるのを待つ必要がある。その効果の発現は、2025年前半くらいまで時間がかかるだろう。日米株式市場の見方が、そこで景気後退の懸念が徐々に和らいでいきそうだという材料を得て変わってくれば、下落リスクも小さくなるはずだ。
日本株との連動性
次に、なぜ、日本株はこれほどまでに米ハイテク銘柄との連動性が強いのか、を考えたい。実際、理由はよくわからない。仮説としては、米株価の時価がハイテク株の上昇とともに膨らんで、時価増加の部分に応じて、米国の投資家が海外への分散投資を増やすからだろう。つまり、もともと変動率の大きかったハイテク銘柄の株価上昇に反応して、海外への分散投資が促されやすい構造なのだ。
調べてみると、日経平均株価における時価の上位銘柄におけるハイテク関連の銘柄の割合は、米国のハイテク銘柄ほどは大きくなかった。日本株で時価総額の大きな構成銘柄は、非ハイテクである。おそらく、海外マネーは特定のハイテク銘柄の購入に集中しているのではなく、日経平均株価の全体に分散投資されているのだろう。
東証プライム市場における海外投資家の売買シェア(委託売買に占める割合)は2024年8月68.9%であった。全体の約7割を占めているから当然ながら日本株全体を大きく動かす。この売買シェアの高さが、日本株の変動率を生み出す。
米大統領選挙
もう1つ、米国の株価を左右しているのは、大統領選挙である。9月10日は、ハリス候補とトランプ候補のテレビ討論会が初めて開催された。筆者は、それをみて大きな差は付かなかったように思う。強いて言えば、未知数だったハリス候補が、大きな失点もなく討論を終えたのが特徴だろう。だから、討論会直後の調査ではハリス優位という結果になりやすかったのだろう。
実は、日経平均株価とフィラデルフィア半導体株指数、日経半導体株指数がともにピークだったのは2024年7月上旬である。この時期の前後は、米大統領選挙を巡って動きがあった。6月27日にバイデン大統領とトランプ候補の討論会があり、それがきっかけでバイデン下ろしが7月上旬に活発化していた。
そして、7月13日にトランプ候補が狙撃されて、すぐにバイデン大統領が選挙への不出馬を表明した。株価が7月上旬にピークになったのは、米大統領選挙の見通しがそれ以前に比べて一気に見えにくくなったからだろう。バイデン大統領VSトランプ候補のときの方が見通しが利きやすかった。株式市場は不透明感を嫌うと言われるから、株価は7月上旬以降に上がりにくくなった。
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