第79回 損益計算書
さて財務諸表は、現在の状況を知り、将来を予測する為に使われるものです。
その中で我々が最も目にするのは「損益計算書」でしょう。
四半期に発表される企業の業績は、損益計算書中心に発表されるからです。
損益計算書とは、企業の利益を知ることができる決算書類のことです。
損益計算書には、収益、費用、利益が記載されており、英語の「Profit and Loss Statement」を略して「P/L」とも呼ばれます。
企業は、モノを仕入れて販売することで利益を生み出します。
これを本業と言います。
仕入れには、当然ながら費用が発生します。
また販売にも、費用が発生します。
販売価格から、この2つの費用を引いたものが、利益となる訳です。
まず、販売価格の総和が、「売上高」になります。
そして、仕入れの為に発生した費用の総和が「売上原価」になります。
この仕入れの中には、加工に要した費用も含まれます。
この2つを差し引き、つまり「売上高」-「売上原価」すると、「売上総利益」が出てきます。
しかし、「売上総利益」が企業の利益になる訳ではありません。
モノを売るには、「広告宣伝費」や「販売員」等モノの仕入れ以外の費用が必要になるからです。
これら仕入れ以外の費用を総称して、「販売費及び一般管理費」と呼びます。
ですから、「売上総利益」-「販売費及び一般管理費」をして、「営業利益」が出てきます。
これが、企業の本当の利益になります。
ところが、企業は今説明した本業以外にも収支に関わる動きをしています。
例えば、銀行からの借り入れや預貯金です。
銀行に預金すれば利息が付きますが、借り入れをすれば利息を支払わなければなりません。
このように、本業以外の収入を「営業外収益」、支出を「営業外費用」と言います。
そこで、「営業利益」に、この数字を加味します。
「営業利益」+「営業外収益」-「営業外費用」の結果を、「経常利益」と言います。
更に企業は、経常的な活動だけでなく、一時的な活動もします。
例えば、新たに不動産を買ったり、保有不動産を売ったりすることです。
当然、この売買は一時的なもので、次年度以降の活動には影響しません。
ですから、この一時的な収入を「特別利益」、一時的な支出を「特別損失(特損)」と言います。
そこで、「経常利益」に、この数字を加味します。
「経常利益」+「特別利益」-「特別損失」の結果を、「税引き前当期純利益」と言います。
そして最後に、国に税金を納めます。
よく「法人税等」と書かれていますが、企業が納める税は、主に法人税、法人住民税、法人事業税の3種類があるからです。
ですから、「税引き前当期純利益」-「法人税等」を計算して、やっと「当期純利益」が出てくるのです。
以上のことを数式で纏めると、下記のとおりになります。
【売上高】-【売上原価】 = 【売上総利益】
【売上総利益】-【販売費及び一般管理費】 = 【営業利益】
【営業利益】+【営業外収益】-【営業外費用】 = 【経常利益】
【経常利益】+【特別利益】-【特別損失】 = 【税引き前当期純利益】
【税引き前当期純利益】- 【法人税等】 = 【当期純利益】
つまり、利益や費用を5階層に分けることにより、企業活動の中身を簡単に知ることが出来るようになっているのです。
これを例えば、和菓子屋で考えてみましょう。
和菓子を作るには、もち米や小豆などの原材料の他に、職人さんの人件費や作るときに必要となる光熱水費等があります。
これら和菓子を作るのに直接かかる費用が「売上原価」です。
「売上高」は当然、売れた和菓子の総額ですから、差し引きすると「売上総利益」が出てきます。
但し、和菓子を作ったからと言って、店も無く、広告も出さなければ、和菓子を売っていることを多くの人たちに知ってもらえません。
ですから、広告を出し、店を構え、売り子を雇ったりする必要が出てきます。
これが、「販売費及び一般管理費」であり、この費用を控除すると「営業利益」が出てきます。
個人商店なら、このレベルで損益を考えるのは終わるでしょう。
ところが企業は、ここからも大きな問題になります。
なぜなら、営業外でも多くの活動をしていて、それを企業自身がしているとされるからです。
個人商店なら、営業外活動は、その商店の主人が個人的にやったことになります。
銀行への預貯金や借入、有価証券の売買などが、それです。
ところが企業は法人であるため、これらのことも企業自身がやったということになります。
ですからここで、和菓子屋が小さいながらも企業だと言う前提で考えましょう。
すると、材料の仕入れのために銀行から借り入れをしたり、支払いのために銀行口座にある程度の現金を置いたりしているでしょう。
借入から発生する支払い利息は「営業外費用」になり、銀行口座の預金から発生する利息は、「営業外収益」になります。
これらは一時的に発生するものでは無く、企業として営業を続けていれば、副産物として発生し続けることでしょう。
ですら、これら「営業外収益」、「営業外費用」を加算することにより、「経常利益」が出てくる訳です。
そして企業は、経常的活動以外に、一時的な活動も行います。
店舗や工場などの不動産、和菓子を作ったり、包装したりする機械などを買ったり、売ったりします。
これらは、毎年やるものではなく、必要に応じて一時的にやるものです。
ですから、これらを「特別利益」、「特別損失」として「経常利益」に加えます。
その結果、「税引き前当期純利益」が出てくる訳です。
この「税引き前当期純利益」に対して、国は課税します。
法人税は大体23.2%、法人住民税は都道府県によって異なりますが大体1.0%、法人事業税は事業によって異なったりしますが、大体2.7%程度です。
ですから、27%程度は税金として持っていかれる訳です。
この税金を支払った後のものが、「純利益」です。
この「純利益」から、企業は配当金を支払う訳です。
もし、配当性向100%、つまり純利益全額を配当金として株主に還元している企業があれば、この純利益から20%は、配当課税として税務署が持っていく訳です。
「税引き前当期純利益」の73%が配当金になる訳ですから、企業が生み出した利益の中から投資家の手元には58.4%しか残らないということになります。
そして、差し引きの41.6%が税金として取られている訳です。
だから、これをしばしば二重課税だということで、批判の対象になっているのです。