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第113回 南海トラフ地震

- 天災は忘れた頃にやってくる -

この言葉は、科学者であり、随筆家でもあった寺田寅彦の名言です。
寺田寅彦は、天災について興味を持っていました。
例えば、彼の日記に関東大震災に遭遇した時のことが書かれています。

「これは自分の全く経験のない異常の大地震であると思った。
その瞬間に子供の時から何度となく母上に聞かされていた土佐の安政地震の話がありありと想い出され、丁度船に乗ったように、ゆたりゆたり揺れるという形容が適切である事を感じた。
仰向いて会場の建築の揺れ具合を注意してみると、(中略)建物は大丈夫だということが直感されたので(中略)この珍しい強震の振動の経過を出来るだけ精しく観察しようと思って骨を折っていた。」

彼の両親は、四国土佐の出身であったことから、前々回の南海トラフ地震である「安政南海地震」に遭遇し、自分の子である寺田寅彦に語っていたのだろうと思われます。
このこともあってか、彼は天災に興味を持ち、科学的見地から調査します。
が、彼が辿り着いた結論は、「天災の発生は予知できない」として「要は、予報の問題とは独立に、地球の災害を予防する事にある。」と、被害を少なくするために安全な施設の建設等を、関東大震災の翌年に当たる1924(大正13)年に提言しています。

ところが当時、彼の主張は全く評価されませんでした。
何故なら、当時の日本の地震行政は、いかに発生を予知するかに重点を置いていたからです。
この方針が変更になったのは、実はつい最近で、2019年です。
神戸や東北の震災を予知できなかったことから、寺田寅彦の提言から100年弱経って、ようやく変更された訳です。
この予知から予防に変更されたことから、今回の「南海トラフ地震臨時情報」が出されるようになった訳です。

ところで、私の「risk management」の説明を学んでくれた人たちは、このここで言う予知と予防のことが良くお判りでしょう。
予知とは、「risk management」的には、被害を避けると言うことです。
予防とは、「risk management」的には、被害を極小化し、復旧を早めると言うことです。

ですから、この「南海トラフ地震臨時情報」も「risk management」の一つと言えるのですが、今回の「注意報発令」は、「risk management」的には大失敗のシロモノと言えます。
と言うのも、科学的見地からは予知できないものの、歴史学見地からはある程度の予知ができるからです。
南海トラフ地震と言えば、日本全国に被害が拡大する大地震です。
ですから、当然ながら、古くからの記録に残っています。


発生年(経過年数) 地震名
684年       白鳳地震
797年(113年後) 「類聚国史」畿内での地震記録あり
887年( 90年後)  仁和地震

1096年(209年後) 永長東海地震 、1099年 康和南海地震

1361年(265年後) 正平地震
1498年(137年後) 明応地震
1605年(107年後) 慶長地震
1707年(102年後) 宝永地震
1854年(147年後) 安政東海地震 、1854年 安政南海地震
1944年( 90年後) 昭和東南海地震、1946年 昭和南海地震

古事記の成立は712(和銅5)年ですから、その前の地震から記録されている訳です。
ここで気づくのは、仁和地震-永長東海地震・康和南海地震-正平地震の間に、1回ずつ地震が起こっているはずだと言うことです。

例えば、確定してはいませんが、976年に京都で大地震があったと記録されています。
発生は今の大河ドラマ「光る君」の時代ですので、地方の実情が伝わらなかった可能性は大いにあります。
ですので、これを当てはめれば、「仁和地震―(89年後)京都の地震―(120年後)永長東海地震」となり、収まりが良くなります。
また、同じように、1245年にも京都で大地震が発生しています。
これを当てはめると、永長東海地震-(149年後)文治地震-(116年後)正平地震となり、こちらも収まりが良くなります。

しかしながら、これはあくまでも仮定の話です。
ですので、確実視されているもので当て嵌めると、南海トラフ地震の周期は90年以上と言える訳です。
仮定を含めても、89年以上となる訳です。

そこで直近の南海トラフ地震ですが、1944年の昭和東南海地震と1946年の昭和南海地震になります。
早い方の1944年の89年後と考えても、2033年です。
つまり、80年しか経過していない2024年に発生すると予想することは、周期的には短かすぎるとなる訳です。
歴史的見地から考えれば、「南海トラフ地震」は、まだ起こらないということが言えます。

しかしながら、このことは、8日(木)に発生地震に連動した大地震が発生しないと言っているのではありません。
それは、1月の「令和6年能登半島地震」が発生した後も、連動した地震が発生する確率があるから注意するようにと言っていたのと同じ意味で注意する必要があります。
しかし、8日(木)の地震から「南海トラフ地震」を紐付けるのには無理がある、紐付けるにしても材料が足りないのではないかということが言いたいのです。

今回の注意報発令の影響で、9022JR東海は一部区間で減速運転、また一部区間の特急の運転を取りやめています。
他にも9041近鉄は、五十鈴川駅~賢島駅間の特急の運転を取りやめます。
更に9021JR西日本も、南紀方面の特急の運転を取りやめています。
このように地震が発生した九州とは関係ない地域で経済的影響が出ている訳です。
そこまでする必要があるのか、本当に発生確率が高まっているのか、と言いたいわけです。

実は、今回、気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」を出したのは、「risk management」的には簡単に説明が付きます。
それは、何の注意報も出さずに、万が一地震が発生したら、責任問題になります。
ところが、注意報を出して地震が起こらなかったとしても、責任は問われません。
彼ら自身にとっては、注意報を出すことについて、「return」はあっても、「risk」は発生しない状況だからです。

このことについて気象庁に文句を言うつもりはありませんが、「災害は正しく恐れる」というのは、ここ最近、何度も言われていることです。
これは、「risk」を過大評価も、過小評価もしないということを意味しています。
「risk」を正しく評価できないと「risk management」は正しく実行できません。
今回の件、南海トラフ地震の発生「risk」を過大評価しているのではないかと言いたいのです。
そんなことを続けていたら、「災害を正しく恐れる」ことが出来なくなり、別の「risk」を生み出すことになってしまいます。
このことを皆さんは注意してください。

さて今回は、「risk management」を再確認するには、ちょうど良い機会だと思って、本題から逸れた内容になりました。
が、この考えは投資に応用できますので、是非とも活用してください。

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