第213回 103万円の壁問題
今、国民の意識が向いている103万円の壁問題です。
国民民主党は、この壁を103万円から178万円に動かそうとしています。
ところが自民党は、103万円から123万円にちょっと動かすだけでお茶を濁そうとしています。
今回は、この103万円の壁の持つ意義を考え、客観的にどうしたら良いのかを考えたいと思います。
先ず、103万円の壁とはいかなるものかと言うことです。
これは、本来的な意義としては、年収が103万円を超えると所得税が発生するということです。
日本国の所得税は、累進課税制度を採用しており、103万円までは非課税、195万円までは5%、330万円までは10%、695万円までは20%、等と定められています。
累進課税制度とは、税率を一律に設定するのではなく、課税対象となる所得や、取得した財産を基礎に計算される課税価格が一定額を超えると、税率が上がって納税額が増えるという税の仕組みのことです。
課税の対象金額が高くなるほど高い税率が設定されるので、所得が多いほど、取得した財産が多いほど、納めなければならない税金の割合が増えることになります。
累進課税制度の目的は、税金を負担できる能力に応じて税を課すことで、低所得者に所得を再分配し、国民間の経済格差を減らすことにあります。
つまり累進課税制度自体に、福祉的意義を持っている訳です。
そこで考えるべきは、どうして103万円以下が非課税になるかです。
実は、この103万円は、48万円の「基礎控除」と、55万円の「給与所得控除」に分けられます。
「基礎控除」とは、われわれ国民が1年間生活するのに必要な額という意味です。
日本国憲法25条では、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を有していると規定されています。
ですから、この「健康で文化的な最低限度の生活」を営むには最低限の所得確保が必要であり、その額が年間48万円、つまり月額4万円になるということです。
給与所得控除とは、個人事業主の言うところの必要経費という意味です。
個人事業主は確定申告をしなければなりません。
この確定申告時にはその事業を行うに当たっての必要経費を申告し、非課税扱いにしてもらいます。
これに対して給与所得者は、確定申告をすることができません。
このため、必要経費を申告することができないことから、一律に55万円にすると国が決めたわけです。
ここでまず考えたいのは、「基礎控除」の月額4万円です。
4万円で「健康で文化的な最低限度の生活」を営めるのかと聞かれれば、「絶対にムリ!!」と答える人ばかりでしょう。
生活保護受給者の生活扶助費だけでも4万円超あり、保護費には他にも住宅扶助や医療扶助もあります。
平均したら、月額10万円以上の支給があると思います。
これは、戦後直ぐくらいの大家族時代の名残として、働いても親と同居している、つまり住居費を考慮する必要が無かったからです。
しかしながら、今は核家族化が進み、所得の中で住居費が大きな割合を占めているのは周知の事実です。
つまり、制度設計の本来的意義で考えれば、この「基礎控除」は生活費だけでなく住居費も含んだ10万円以上に設定されていなければならないということになります。
また、「給与所得控除」に関しては、引き上げ無いのであれば、給与所得者も須らく確定申告しても良いと変更してくれれば良いのです。
自営業者は必要経費として、今の上昇した実際の商品の価格で、控除を受けることが出来ます。
これに対して、給与所得者のみ物価上昇後の価格で控除できないのは、明らかな不公平です。
公平な税制と言う税の根幹を為す観点からも、本来的にはあり得ないことなのです。
今、自民党や財務省は、予算不足を理由に、この「103万円の壁」を国民民主党が求める178万円から123万円へと大きく圧縮しようとしています。
この123万円に対して自民党は、「物価上昇率に応じた根拠のある額で譲れない」としています。
これは、昔のように住居費の負担が無ければ当然だと考えますが、多くの国民が自分の住居費を負担しなければならないという社会の変化を無視し続けている結果だと言えます。
そもそも、物価上昇に応じて基礎控除を上昇させたり、社会の変化に応じて控除額を変化させたりするのは、「税の公平」の観点から考えても、財務省の責務であるはずです。
この責務があるにも関わらず、増税になることは喜んでやるのに、減税になることはやりたくないと考える財務省には嫌悪感しか出てきません。
財務省の官僚が嫌われる原因は、この辺りにあるのでしょう。
また、財源不足を理由としてやるべきことが出来ないのは、明らかな失政です。
政治家が愚策を重ね続けたために、財源が枯渇するという結果を招いている訳です。
古代なら、そんな愚策を重ねる王は、国民から責任を追及され、革命を起こされ、ギロチンで首を切られたことでしょう。
このことを自民党系の国会議員は肝に銘じるべきでしょう。
本来の103万円の壁は、政治的に決めるのではなく、生活や経済の実情に応じて決めるべきことだと考えます。
住居費や医療費など、国民が「健康で文化的な最低限度の生活」を営める金額までは、非課税にするべきなのです。
もし、今の日本でそのことが実現できないのであれば、それは日本国家が国民に対して、基本的人権を保障することが出来ないと言っていることと同じになります。
つまり、今の日本国は、政治家の失政が続いて、既に基本的人権を保障することが出来ないほど、貧しい国に成り下がってしまっているということになります。