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第159回 割安でも買われない理由(流動資産)

前回、3321ミタチ産業の株価純資産倍率(PBR)は0.665倍で割安だと書きました。
割安なら、もっと買われていても良いはずだと考えるのが普通です。
ところが、3321ミタチ産業が大きく買われる雰囲気は、今のところありません。
では、どうして割安なまま放置されているのでしょうか!?
当然、それには理由があり、今日から数回に渡って、その辺りを解説しようと思います。

前回に引き続いて、3321ミタチ産業2024年5月期の決算短信を使います。
その5ページ、貸借対照表の資産の部の表を見て下さい。
そこには大別して、上下2つの欄に分かれると思います。
上の「流動資産」と下の「固定資産」の欄です。

ザックリと説明すれば、「流動資産」とは1年以内に現預金になる予定のある資産のことであり、「固定資産」とは1年以内に現預金になる予定の無い資産のことです。

そこでまず、「流動資産」の中身を見てみましょう。
基本的に1年以内に現預金になる予定のある資産が並んでいます。

 現金及び預金     3,123,066
 受取手形及び売掛金  5,132,509
 電子記録債権     2,282,712
 棚卸資産       7,231,606
 その他           351,446
 貸倒引当金       △29,927
 流動資産合計     18,091,413

ここで、「現金及び預金」の説明は不要でしょう。
言葉そのままです。

次に、「受取手形及び売掛金」ですが、これは取引先との営業取引の中で受け取った手形と取引先との営業取引の中で発生した未回収の代金のことです。
例えば4755楽天モールでの買い物でカード払いにしたとします。
カードの引き落としは月末であり、店側への入金はそれ以後になります。
つまり店側にとっては、商品が無くなってから入金されるまで1ヶ月以上のタイムラグがあるということになります。
そのタイムラグを貸借対照表に表示すると、後で説明する「棚卸資産」から「受取手形及び売掛金」に変化する訳です。
これは相手先が倒産でもしない限り期限が来れば支払われるものですから、現預金に準じるものと考えて問題ないです。

「電子記録債権」とは、電子的記録により債権を発行・管理する既存の紙媒体の手形・小切手に代わる新しい決済手段のことです。
これも「受取手形及び売掛金」と同じようなものですので、現預金に準じるものと考えて問題ないです。

そしてここで問題となるのが「棚卸資産」です。
「棚卸資産」とは、営業目的で保有する資産、または資産になる過程のもののことで、いわゆる在庫と呼ばれるものです。
商品を売るためには、「在庫」の確保が不可欠となります。
「在庫」は、企業が販売目的で保有している商品のことですから、1年以内に現金化される予定ですので、「流動資産」として計上されます。

ところが、その商品が売れなかったときのことを想像してください。
倉庫に在庫が積み上がります。
その倉庫の在庫と同様に、この「棚卸資産」の欄にも金額が積み上がって行きます。
その積み上がる原因は、売れないからです。
売れないのに、「1年以内に現預金化する」と考えるのは、単なる妄想でしかありません。
この企業側の妄想に、投資家が付き合う必要はありません。
ですから、安全性を優先したい投資家は、この「棚卸資産」「不良在庫」扱いにして、流動資産から控除する訳です。

更に「その他」とありますが、これは「前払費用」、「短期貸付金」、「仮払金」、「立替金」、「未収金」などのことです。
経理をしたことがある方なら、これらの勘定科目に馴染みがあるでしょう。
金額的には、それほど大きくならない代物です。

最後に「貸倒引当金」ですが、これは保有する債権の一定割合を計上するものです。
基本的に債権は回収できるという前提に立つものですが、何らかのトラブルで回収不能が発生する「risk」を見越して、先に計上しておくものです。
先に計上することで、いざ発生した時の負担、ダメージを分散させるという「return」があります。

このように、「流動資産」は、1年以内に現預金となる資産のことですが、貸借対象表の合計額を見ただけでは、本当に実現できるかどうか分からない部分があります。
「棚卸資産」は、本当に売れるのだろうか・・・・。
「受取手形及び売掛金」は、本当に回収できるのだろうか・・・・。
それぞれに個別の「risk」が存在する為、その「hedge」として「貸倒引当金」を計上するのですが、この「貸倒引当金」が正しく計上されているのかも実は大きな問題になります。

あのリーマンショックの時のように、昨日まで普通に売れていた商品が、今日から急に売れなくなることがあります。
昨日までちゃんと支払ってくれていた取引先が、今日から急に支払いが滞るということがあります。
こんなことが起こるだろうと予想して、正しく計上していた「貸倒引当金」も、利益が無くなり計上したら赤字になることから、計上できなくなることもあります。

ですから、「流動資産」に表記されている合計額が、1年以内に完全に現金化されるかどうか分からないのです。
それどころか、未来永劫、永久に支払ってもらえなくなる「risk」も「0」では無いのです。
このようなことから、安全策を取ろうとする投資家は「流動資産」の内容を詳細に分析し、ある一定額を割り引いて計算する訳です。
これが、株価純資産倍率(PBR)的に割安であっても、買われない一因となっているのです。

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