第183回 レプリコンワクチン
2269明治HDの子会社になる「Meiji Seika ファルマ」が開発した「レプリコンワクチン」が大騒動を引き起こしています。
「レプリコンワクチン」とは、新型コロナに対するワクチンの一つです。
そういう意味では、ファイザーやモデルナが作成したワクチンと同じようなものです。
ところが、その効果に先進的な技術が使用されていることから、安全性を疑問視する一定数の集団がいることで騒動となっています。
そして、その集団の中でも最も過激な人たちは、「レプリコンワクチン」を毒薬のように言っています。
一般人なら仕方のないと言えないこともないのですが、現役の国会議員の立場の人が発言する場合は、非常に大きな問題になります。
なぜなら国会議員は、強大な「インフルエンサー」の役目を背負っているからです。
彼らの仕事は、国民全体の「risk management」をすることであり、その為に国会議員という肩書と共に、「インフルエンサー」の地位を得ている訳です。
強大な「インフルエンサー」に科学的根拠の無いことを、あるように言われると、さすがに作成元の「Meiji Seika ファルマ」としては、看過することができません。
そこで、この国会議員を「名誉棄損」で告発しました。
告発することは、人(法人)が持つ基本的人権の一つであり、何人たりとも犯してはなりません。
ところが、この告発を問題視する国会議員も現れました。
人権の行使を問題視する国会議員も、非常に大きな問題です。
そこで今回は、この「レプリコンワクチン」について考察したいと思います。
まず私は、医学的知識はほぼありません、完全な素人です。
ですから、医学的見地からのアプローチは出来ません。
そこで、法的、「risk management」的見地から、この問題を考えてみたいと思います。
最初に、ワクチンや薬剤を製造・販売することは、基本的に自由です。
ですから、昔は「ガマの油」なんかが、傷薬として自由に販売されていました。
現在放送中のNHKの大河ドラマ「光る君へ」に登場している三条天皇は、水銀を不老長寿の薬と信じて服用し、失明した挙句に寿命を縮めてしまいました。
また、「軍師官兵衛」で有名になった黒田氏は、「目薬」を売って財を成し、戦国大名まで昇りつめた一族でした。
しかしながら現在は、自由にワクチンや薬剤を販売することができません。
なぜなら、本当に効果があるのかとか、効果より副作用の方が大きいとか、の問題があるからです。
三条天皇のように、薬剤で服用したつもりが実は毒薬だった、というようなトラブルが起こらないようにするためです。
このような規制が無ければ、4967小林製薬の「紅麴サプリ」みたいな問題が、頻繁に起こっていることでしょう。
ですから、国家が薬剤の効用等を確認し、販売の許可を出して管理することになっています。
つまり、いくら効果があるものでも、許可が出ていなかったら違法となり売れない訳です。
逆に、実際は効果が無いものでも、許可が出ていれば合法であり、売ることが出来る訳です。
これが現代のルールな訳です。
そしてこの許可を得るために製造元は、「治験」を行います。
この「治験」で、「効果(return)」と「副作用(risk)」を確認する訳です。
まず大前提として、「副作用(risk)」の無い薬剤は存在しないと理解してください。
昔、「サルバルサン(Salvarsan)」という薬剤がありました。
救世主を意味する 「Salvator」 と、ヒ素を意味する「arsenic」の2つを合成して名付けられたものです。
この「サルバルサン(Salvarsan)」は、長年人類が苦しんできた「梅毒」の特効薬として開発されたので、まさに人類にとって救世主でした。
そして、その主原料がヒ素であったことから、名称にヒ素が入れられている訳です。
実は、梅毒スピロヘータ―がヒ素に弱いことは、大昔から知られていました。
ところがヒ素は、人にとっても猛毒です。
ですから、ヒ素をそのまま人が服用してしまったら、梅毒スピロヘータ―が死滅する前に、その人が亡くなってしまう訳です。
つまり、「risk」があるどころではなく、「danger」であった訳です。
そこで化学者たちは、梅毒スピロヘータ―に対しては猛毒のままで、人に対しては弱毒になるようなヒ素化合物を探していた訳です。
つまり、化合物化することで、人が服用できるまで弱毒化するよう「risk hedge」を考えた訳です。
そして、606回目の実験で発見したのが、「サルバルサン」であったことから、この薬剤は「サルバルサン606」、「ヒ素606」などと呼ばれました。
「サルバルサン」は人に対しては弱毒(「low-risk」)であっても毒性はありますから、飲まないに越したことはありません。
しかし、梅毒に罹患してしまったら、放置していれば10年ほどで死んでしまいます。
つまり、梅毒で死ぬという「high-risk」を「hedge」する為に、「サルバルサン」という「low-risk」を服用した訳です。
多少の毒性があったとしても、「サルバルサン」を服用した方が、助かる確率が高がったからです。
「サルバルサン」の副作用は、今日では考えられないほど激しいものでした。
ヒ素中毒で亡くなる方も多かったと伝わっています。
それでも、「サルバルサン」が薬剤として認可されたのは、「サルバルサン」の副作用で亡くなるよりも、服用せずに梅毒で亡くなる方がはるかに多かったからです。
そして現代は、「サルバルサン」を薬として使用することは無くなりました。
梅毒の治療薬としては「ペニシリン」が有効であり、副作用も殆どないので、こちらが使用されるようになった訳です。
このことを前提に「レプリコンワクチン」についてですが、治験の結果では「効果(return)」と「副作用(risk)」は、他の薬剤と同等であると結果が出ています。
「効果(return)」が小さかったり、「副作用(risk)」が大きかったりすれば、否定派の言質も理解できます。
しかしながら、少なくとも治験の結果では、厚生労働省がこの薬剤を承認しないのは、現段階では恣意的な差別と言えるでしょう。
ですから、否定派の人たちは、科学的見地からこの薬剤の問題点を明確にする義務を負うことになる訳です。
もし、これを立証することが出来ないなら、それは現段階では風説の流布になり、処罰されてしかるべき行為となります。
- いや、自分は間違っていない!! -
そう否定派の人たちは、考えているのでしょう。
しかし、科学的に立証できないことを事実のように言いふらすのを放置するのは、国家としては「high-risk」な状態だと言えます。
1923(大正12)年9月1日、関東大震災が発生しました。
その混乱のさ中、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」、「朝鮮人が暴動を起こしている」などの流布が広まり、多くの無実の朝鮮人や、朝鮮人に間違われた人々が犠牲になりました。
このことは、去年公開された「福田村事件」という映画を視聴して頂いたら分かると思います。
もしかしたら、本当に朝鮮人が「井戸に毒を入れたり」、「暴動を起こしたり」していたのかもしれません。
しかし、その事実は、当時も現在も科学的に立証されていません。
だから、風説と断定されるわけです。
そして、この映画の中でも加害者となる村人たちは、行商団を襲うことになります。
この村人たちは、行商団を襲うことが悪だと、犯罪だと理解していたでしょうか!?
まず理解していなかったでしょう。
彼らは風説を信じて、村を守るための正義だと考え、自己犠牲の精神から虐殺に手を染めたと思われます。
つまり風説は、「正」、「悪」を入れ替える巨大な力を持っていると言える訳です。
当時の人々が置かれていた状況は、当時の人にしか分かりません。
もしかしたら、そんな状況を利用して、確信犯的に虐殺を楽しんだ可能性も、「0」ではありません。
しかし、そうであっても、このようなことが起きたのは、風説が流布されてしまったからです。
また、この考えも推論でしかないことから、断定すれば風説になってしまいます。
ですから現代を生きる我々は、科学的根拠のないことは風説を流布させることとされ、科学的見地に基づいた立証を、刑事、民事を問わずに義務付けられている訳です。
このことは、国政の基本原則であり、政治家であれば誰もが守らなければならない大前提と言える訳です。
もし、この大前提が否定されれば、「光る君へ」に出ていた藤原伊周のように、呪詛しただけでも刑事責任を問われる社会になってしまうからです。
このことを心得ていない政治家は、扇動政治家の誹りを受けるべき輩と言えるでしょう。
そして、そのような政治家を党員としている政党は、扇動政党とも言えるものです。
ですから、自身の政党を貶められたくないのであれば、早々にこのような輩は追放するべきでしょう。
ただ、間違ってもらいたくないのは、「レプリコンワクチン」を批判したことを批判している訳ではありません。
国会議員が科学的根拠のないことに基づいて批判している、つまり人権侵害していることを批判しているのです。
どんな思い、理由があっても、法律に従った手続きで許可されたものを科学的根拠なく批判することは、法治国家の根幹を揺るがす存在になるからです。