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第150回 ベンジャミン・グレアム

ベンジャミン・グレアムは、「バリュー投資家の父」と別名を持つ人です。
彼が有名になったのは、前回説明したバフェットの師匠だからです。
もしバフェットに師事されていなかったら、実際のところはこれほど有名にはなっていなかったと思います。

グレアムは1894年にロンドンで生まれました。
そして1歳の時に両親に連れられて、アメリカへと移住します。
その後、コロンビア大学を卒業して、証券会社に就職した後、1926年にジェローム・ニューマンと投資会社グレアム・ニューマン社を設立します。
ところが、1929年の株価大暴落に端を発する世界恐慌の影響を、モロに受けてしまいます。
この経験を契機として、投資の研究を本格的に開始し、後に「賢明なる投資家」という名著を世に出す訳です。
この本は、初心者には難しいかもしれませんが、兵法の「孫子」同様、投資家の基礎本として読む価値はあります。

グレアムの基本的な考え方は、彼の投資の定義を読めば明確です。
投資とは、詳細な分析に基づいたものであり、元本の安全性を守りつつ、かつ適正な収益を得るような行動のこととしています。
更に、投資には投機的な要素が内在するものの、この要素を最小限に抑えて、いつやってくるかわかならい株価の暴落に対して、財政的・心理的に備える必要があると説いています。
実際のところ、短期投資家の頃の私の実践とは真逆の考えです。

また、グレアムの投資に対する考え方の中には、「安全域」という概念があります。
「安全域」とは、適性価格以下の値段がついている株式のことです。
私的に言えば、売られまくった後に、誰からも興味を示されなくなった銘柄のことになります。

ですからグレアムの考え方には、投資をする際に必ず守らなければならないことがあります。
それは、「企業の有形資産価値を大幅に上回る価格の銘柄には決して手をださない。」です。
そして実際に株式投資をするときには、過去10年か、それ以上の期間にわたって企業が安定した収益を上げており、将来起こりうる景気後退時に備えた十分な規模と財政的な力を備えていることを確認しなければならないとしています。
このことを具体的に現した指標として、「ネットネット株」と「ミックス係数」をグレアムは考案しています。

「ネットネット株」とは、会社の時価総額よりも、会社の保有している換金性が高い資産のほうが多い銘柄のことです。
具体的には、現金などの流動資産から総負債を差し引いた「正味流動資産」より、時価総額が小さい銘柄のことと考えれば良いです。
時価総額は、発行済み株式数×株価で決まります。
この時価総額が、その企業が保有する現金等より少ないということですから、大幅に割安だと言える訳です。
これをかぶ1000さんの言葉を使って簡単に説明すれば、「1万円の入った財布が7,000円で売られている」ということになります。

ネットネット株 = ( 流動資産 - 負債 ) > 時価総額

次に「ミックス係数」があります。
「ミックス係数」とは、純資産と当期純利益の両方で株価の割安性を測定する指標のことです。
具体的には、「PER」×「PBR」で簡単に計算することができます。
グレアムは、この係数が「22.5」以下の銘柄だけが投資対象になると書いています。
この係数は、株価に対して1株当たりの純資産が少ないか、1年あたりの利益額が少ないかで、跳ね上がります。
例えば、PBR1倍なら、PER22.5倍まで対象になります。
PBR0.5倍なら、PER45倍、PBR2倍なら、PER11.25倍までが投資対象と言えます。

実は、この両方の条件をクリアする銘柄は、米国などでは非常に少ないです。
なぜなら、多くの投資家が、当然のようにグレアムの投資法を学び、実践しているからです。
それに対して日本市場では、このような銘柄はたくさんあります。
なぜなら、それだけ投資に対する知識が低いからです。

と、単なる投資家の問題だけと言いたいところですが、実際には違います。
日本に割安株が多いのは、日本の労働慣行に問題があるからです。
諸外国では、人件費は変動費に位置づけられるのに対して、日本では固定費に位置づけられます。
これは、諸外国に比べて日本の労働者が法的に強く保護された結果、簡単に雇用調整が出来ないからです。
企業経営の中で、固定費を圧縮することが経営者の手腕の一つになります。
ですから、日本企業は簡単に労働者を雇用することが出来なくなり、多くの人たちが派遣社員やバイトで生計を立てなければならない訳です。

これと同様に、PBRは解散価値とも呼ばれていて、企業を清算した後に株主に配分される現金のことです。
日本の労働者の権利が大きく保護されている為、清算した時に、労働者に対してより多くの補償を配布しなければなりません。
つまり、諸外国の企業より、日本の企業は見た目の資産が低いということになってしまうからです。
このことが理解されているから、割安な銘柄があっても、おいそれと外国人が買いに出ることは無いのです。

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