第163回 株価が「株式の適正価格」より高くなる理由(自己資本)
前回までで、「株式の適正価格」の説明をしました。
- これが本当に適正価格なのか!? -
そう思われるかもしれませんが、正直なところ私も断定することはできません。
ただ、何かを判断する為には、尺度、つまり定規が必要になります。
その定規の一つとして、この計算方法の株価を「株式の適正価格」と私はした訳です。
そして通常は、この「株式の適正価格」より、実際に売買されている価格の方が高くなっています。
例えば、前回求めた3321ミタチ産業の適正価格は、1株当たり743円です。
これに対して10月4日(金)の終値は1,178円です。
適正価格より435円高くなっている計算になります。
これは、取引価格が適正価格より高くなるバイアスがかかっている為で、今回はそのバイアスについて説明しようと思います。
そこで当たり前のことですが、株式というのは、その企業の分割された所有権みたいなものです。
そしてその企業は、宝石や金塊のように何年経っても変化しないような不変性を価値としている代物ではなく、日々事業活動を行い、成長しているところに価値があるものです。
つまり、企業はモノというより、人であり、そういう意味でも法人と言えるのだと思います。
企業活動は、社会に有益な作用を生み出すことにより、利益を得る行為です。
社会に無益な作用では、利益を得ることはできません。
同じラーメン屋でも、味と価格の整合性が取れていない店では客が入らず、閉店を余儀なくされるみたいなものです。
そして企業は、その得た利益の大部分を内部留保と言って、その企業の中に貯め込みます。
その内部留保が一定量に達すると、今度は再投資に回して企業自身の拡大につなげるのです。
再投資というのは、俗に設備投資と呼ばれるものです。
当然、自身が稼いだ利益ですから、自己資本に分別されることになります。
つまり企業が稼いだ利益の大部分は、形はどうあれ、自己資本に組み入れられることになるのです。
ここでまた、3321ミタチ産業の2024年5月期の決算短信を例に使います。
1ページ目を見て下さい。
上から2段目の左端に、「1株当たりの当期純利益」が記載されています。
2023年5月期が212円87銭、2024年5月期が153円52銭と書かれています。
また3段目の右端には、「1株当たり純資産」が記載されています。
2023年5月期が1,643円99銭、2024年5月期が1,816円82銭と書かれています。
これは企業活動の結果、2024年度は153円53銭の利益が出たということになります。
この結果、1株当たりの純資産額が2023年度末は1,643円99銭だったものが2024年度末は1,816円82銭に増額した訳です。
1株当たりの純資産額が増加しているなら、当然、「株式の適正価格」の適正価格も増加していると言える訳です。
つまり企業は、日々の企業活動を通じて、微細ながらも成長し続けていると言える訳です。
ですから、私のように短期投資を経由せずに、長期投資を主として始めた投資家の人たちは、今の株価に関係なく買いを入れます。
それは、目先の株価に関係なく、「株式の適正価格」が少しでも安い時に買うことこそが最良であるというグレアムの思想に基づいているからです。
日々の株価の動きに囚われることをグレアムは「投機」と呼び、否定しています。
3321ミタチ産業で言えば、年間で150円ほど自己資本が増加しています。
つまり、1日当たり50銭程度の増加となります。
そして、この事実を突き詰めて考えれば、次のような仮説が成り立ちます。
- 今日は割高でも、明日以降、この割高が逓減する -
つまり、割高な銘柄でも、徐々に自己資本を積み上げて、いずれは割安に変化するということです。
ですから、必ずしも売上高が増加しなければ、「株式の適正価格」が上がらない訳ではありません。
売上高の増加が無くとも、利益が出ていれば、それだけで「株式の適正価格」は増加するからです。
ただ、いずれはと言っても、そのいずれが数十年、数百年先では、余りに未来過ぎて本当に実現されるのかどうか疑問が残るところです。
ですから、このいずれかは、通常、2~3年程度を考えて投資家は売買の値段を決めるのです。
つまり、今の「株式の適正価格」を考えれば割高だが、2~3年程度経過すれば、適正株価になるということです。
ここで確実に言えることは、投資家は元々割高な銘柄を買わなければならないという宿命を背負っているということです。
なぜなら、持っていれば値上りが確実なものを、今の「株式の適正価格」で売る人は居ないでしょう。
売るとすれば、その値上り分も加味した値段で売りに出すようにするでしょう。
このように株価は、数年先の「株式の適正価格」を意識しながら取引されます。
だから、利益の出ている企業の株式は「株式の適正価格」より高く取引されるわけです。