第90回 兵家と農家
まず「孫子」は、諸子百家の中では兵家に分類されます。
と言うより、「孫子」があるからこそ、兵家という一派が生まれたのだと考えて貰って良いと思います。
そして諸子百家とは、古代中国に発生した多くの思想の集合体です。
更に思想とは、「risk management」の一形態だと理解すれば、色々と腑に落ちることがあります。
例えば、諸子百家は、俗に九流と呼ばれたりします。
これは、諸子百家の中で、有力派閥が9つあったということです。
その9つとは、儒家、道家、陰陽家、法家、名家、墨家、縦横家、農家、雑家です。
この9つの中に、兵家は含まれていません。
実は当時、兵家はそれほどメジャーでは無いんです。
逆に、農家なるものが含まれています。
農家思想とは、今日でいうところの「農業の始め方」という本みたいなものです。
- そんな実用書がどうして思想なんだ!! -
そう思ってしまう人が多いと思いますが、思想は難しい学問ではなく、単なる「risk management」に過ぎないのですから、実用書が含まれていても当然なわけです。
古代の中国に限らず日本でも、農耕民族であれば、秋の収穫の多寡が、その未来を決定づけます。
豊作であれば良いのですが、凶作が続けば食べるものが無くなり、終には餓死に至ってしまいます。
餓死しない為の「risk management」として、「農業の始め方」は立派な思想書であると言える訳です。
今の時代の人は、思想とか宗教と聞けば難しいもの、下手をしたら危ないものと思い込んでいます。
しかしどちらも、単なる「risk management」の一形態に過ぎません。
危ないのは、思想とか宗教を特別なものと錯覚している現代人に、その錯覚を利用して操ろうとする詐欺集団です。
その考え方が詐欺かどうかを見破るには、その考え方に「risk management」の要素が含まれているかどうかを調べれば良いのです。
含まれてなかったら、それは詐欺です。
つまり、当時の人たちにとっては、「兵家」よりも、「農家」の方が重要だったと言うことです。
戦争で殺されるよりも、凶作で餓死する方が、はるかに「high risk」だったということです。
今の時代からは想像もつきませんが、当時の人たちはそれだけ多くの「risk」に晒されていたのです。
この農家の特徴的な考え方の一つに、最初の新芽を大事にするというものがあります。
最初に出た目を大事に育てて、2番目、3番目を間引くというものです。
これは、農家特有の考え方であり、兵家には存在しません。
兵家なら、1番目ではなく、2番目、いや3番目辺りが良いと書きます。
なぜなら、どうしても1番目は注目を集めてしまいます。
日本で1番高い山は答えられても、2番目に高い山は答えられない人が多いのと同じです。
注目を集めれば、敵も多くなってしまいます。
結果、敵に狙われて、志の半ばで倒れるということになる可能性が高いからです。
後漢の開祖となる光武帝劉秀は、反乱軍の中でも5番手、6番手という立ち位置でした。
皇帝になれたのは、自分よりも立ち位置が上の人たちが、悉く殺されたからです。
では、なぜ農家は1番目を大事にするのか・・・・。
それは、やはり1番目の新芽の方が大きく活力があり、大きく実を結んでくれる存在だからです。
そして、農家の敵は同じ人間ではなく、天であり、気候です。
気候が影響を与えるのは、新芽の順番なんか関係ありません。
だから農家では、最も立派な新芽を、そのまま大事にするという考えが発達したのです。
ですから、ここで注目して欲しいのは、対人戦は「兵家」、そうでなければ「農家」の考え方が良いと言うことです。
これを投資に置き換えれば、ゼロサムゲームの比率が高くなる短期投資は「兵家」、低くなる長期投資は「農家」が良いとなります。
例えば先日、四季報で紹介した重工業業界の銘柄。
7011三菱重工業、7012川崎重工業、7013IHIを紹介しました。
この3社の中では、割安感、つまり出遅れ感から7012川崎重工業、7013IHIが良さそうでした。
ところが財務の安定性と業績では、7011三菱重工業が1番でした。
目先的には7012川崎重工業、7013IHIの方が、良い動きが期待できそうです。
ところが、長期的にみるとやはり7011三菱重工業が良いかもしれません。
なんせ、5年後、10年後の状況は、まだ四季報には書かれていません。
そういう未来を考えるうえで、安定企業と言うものは、非常に魅力的に映ります。
昔、投資をするなら「01企業」と聞いたことがあります。
「01企業」とは、証券番号が「××01」の企業であり、その業界の第一人者の企業が付けていたからです。
- そんな大企業に投資しても「return」が少ないのに、何言ってんだろ!! -
そう思って、当時はバカにしていました。
が、今になって、そんなことを考えた自分の方が間違っていたと思います。
複利を得るなら、やはり投資対象は安定企業であるべきだと、今は反省しています。
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