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第242回 BUTTERFLY EFFECT

この1月から始まったドラマは、なかなか興味深いものが多いですね。
「べらぼう」も面白そうですが、日曜劇場の「御上先生」も良さそうです。
先日、第1話を視聴したのですが、その中で御上先生が生徒たちに「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?」と問いかけるシーンがありました。
これは、「バタフライエフェクト」を表象した言葉になるのですが、今回は、この一文についてちょっと深掘りしようと思います。

「バタフライエフェクト(butterfly effect)」とは、力学の状態に僅かな変化を加えると、その僅かな変化を加えた場合と、加えなかった場合とでは、その後の状態が非常に大きく変化してしまう現象のことです。
これは、MIT教授で、気象学者のエドワード・ローレンツが発見した現象であり、事実になる訳です。
ですから、この現象自体は、「風が吹けば桶屋が儲かる」というような諺とは全く違います。

ローレンツ教授が、この現象を発見する過程は、非常に興味深いものです。
1961(昭和36)年、教授は研究活動の中で、コンピュータを利用した気象モデルのシミュレーションを行っていました。
その前提条件である一つのデータを「0.506127」と入力した上で、天気予測プログラムを走らせて、ある天気情報を抽出しました。

その後、教授は計算に間違いないことを確認するために、同じ数値でプログラムを走らせようとしました。
ところが、当時のコンピュータの機能は現代とは比べられないほど劣っていたので、入力データが6桁であっても、出力データに記載される入力値表記は3桁しかなかったのです。
教授はそんなことを気にせずに、出力された「0.506」を、つまり小数点第4位以下が省略されたものを入力して、再度プログラムを走らせた訳です。

この時の教授は、この程度の僅かな誤差は無視しても問題ないと考えていました。
ところが2度目の結果は、1度目とは大きく異なるものに変化してしまっていたのです。
この事実を目にした当初、教授は2つの結果の差が信じられず、コンピュータが故障したからだと考えました。
そこで、データを一つ一つ確認したのですが、その計算過程に誤りが無いことに気づきました。
つまりこの結果は、コンピュータの故障が原因ではなく、初期値の僅かな誤差が原因だったことが判明したのです。
この初期値の僅かな誤差を蝶の羽ばたきに例えられたことから、この現象を「バタフライエフェクト」と呼ばれるようになったのです。

更にこの結果から、コンピュータによる気象の正確な長期予報は、現実的に不可能であることが明確になりました
なぜなら、初期値の僅かな違いが、結果として大きな違いになるのですから、時間軸が長くなればなるほどブレも大きくなってしまうからです。
このように、「バタフライエフェクト」と呼ばれる現象は、気象学的には事実なのです。

この事実について教授は、1972(昭和47)年に、米国科学振興協会で講演をしました。
その時のタイトルが「Predictability: Does the Flap of a Butterfly's Wings in Brazil Set Off a Tornado in Texas?(予測可能性:ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?)」だったのです。
ですから、ドラマにも出てきた「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?」という一文については、比喩的な意味合いを持ち合わせていると言えます。
つまり、この一文は必ずしも事実とは言えませんから、「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じ意味合いになるということになります。

さて、「バタフライエフェクト」「1匹の蝶」を比喩に使われることで有名になったのですが、教授自身は、元々は「1羽のカモメ」と言っていました。
1963(昭和35)年に出された論文では、その最後に「理論が正しければ、1羽のカモメの1回のはばたきは、気象現象の将来を永遠に変えるのに十分となることを、一人の気象学者は述べた。論議はまだ決着していないが、近年の多くの証拠はカモメの方を支持しているように思われる」と書いているからです。
それが、前述の米国科学振興協会で講演する際、その主催者の意見から、「カモメ」「蝶」に変更したと伝わっています。
「カモメ」より「蝶」の方が、よりセンセーショナルに理解されると主催者が考えたからです。

最後にですが、この「バタフライエフェクト」は、気象の世界では初期値の極少な異なりが、結果に対して重大な違いが出て来ることを意味しています。
ですから、このことは次の2つのことを同時に意味しています。

➀地球の表面気温がたった0.1℃変化しただけでも、気象は大きく変化する。
➁現在の異常気象の原因は二酸化炭素だとまことしやかに言われているが、実際のところは分かっていない。

「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こす」可能性が「0」ではない訳です。
そうなれば、現在の異常気象の原因は、ほんの些細なことに起因している可能性がある訳です。
それは、通説通りの大気中の二酸化炭素の増加かもしれません。
実は違って、地球表面の緑地の減少かもしれません。
はたまた、年初のカリフォルニアの山火事のように、自然災害かもしれません。
更に言えば、近年、地球規模の火山の大噴火が発生しておらず、火山灰が太陽光を遮っていない、なんてことかもしれません。
気象に関しては、これほど分からないということです。

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