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第134回 裁定取引

「裁定取引」とは、同一の価値を持つ商品の一時的な価格差が広がった時に、割高な方を売って割安な方を買い、その後、両者の価格差が縮小した時点でそれぞれの反対売買を行うことで利益を獲得しようとする取引のことです。
基本的に「low-risk」である為、主に機関投資家が利用する手法になります。
特に、株価指数の現物価格と先物価格を利用した取引が代表的です。

その中で、「裁定買い」とは、理論価格よりも高くなっている割高な先物を売るのと同時に、現物を買うこと言います。
「裁定売り」とは、理論価格よりも低くなっている割安な先物を買うのと同時に、現物を売ることを言います。
更に、「裁定解消」とは、先物を売って現物を買うという裁定取引のポジションを組んでいる場合、その後、利益を確定するために先物を買い戻して現物を売り戻すといった反対売買を行うことを言います。
その際に行われる現物の売りのことを「裁定解消の売り」と言い、現物の買いのことは「裁定解消の買い」といいます。
因みに、「裁定解消の買い」という言葉は、殆ど聞いたことが無いです。

さて、もうちょっと分かりやすく説明してみましょう。
東京では1,000円で売っている商品が、大阪では500円で売っているとします。
それなら、大阪で、500円で仕入れて、東京で、1,000円で売れば儲かると考えて実行します。
これを実行するのが、実は商人です。

すると、大阪では需要が増えてその商品は値上りし、東京では供給が増えてその商品は値下がりします。
そして今度は逆に、大阪では800円、東京では750円と逆転現象が起こってしまいます。
これは、需要と供給の関係に、タイムラグによる行き過ぎが発生してしまうからです。

こうなることを見越した投資家は、大阪では500円で大量の商品を仕入れて保管し、東京ではその商品を大阪で仕入れた同数を借りてきて1,000円で売ります。
そして逆転現象が起こる頃を見計らって、大阪で仕入れた商品を売り、東京では売った商品を買い戻す訳です。
こうすれば、大阪から東京までの輸送代やタイムラグから発生する損失を回避しつつ、利益を得ることが出来るからです。
また、価格差が縮まらなかった場合は、輸送代はかかりますが、大阪で買った商品を東京に輸送して返却すれば、商人と同じだけの利益を手に入れられます。
これを大阪と東京ではなく、現物と先物で行うのが、「裁定取引」ということになります。

さて、令和6年8月5日(月)、日経平均は大暴落しました。
前場から2,000円安と売られていましたが、前引けにかけては戻す銘柄がそこそこありました。
ですから、後場は買い場になりそうと思いつつも、所要があって後場は全く見ることは出来ませんでした。
ただ、ストップ安近辺で指値していた銘柄の約定を教えるスマホのバイブが多過ぎるので、何が起こっているのかと気になっていましたが・・・・・。
結果、後場は更に売られて4,451円安になっていようとは、さすがにそこまでの動きを想定できていませんでした。

この後場のダメ押しの原因になったのが、先物市場での売りです。
既に多くの方がご存じだと思いますが、日本市場は外国人に支配されています。
現物市場の60%、先物市場に至っては75%の売買が、外国人によるものだからです。

そこで、外国人が目先の利益を目指して、先物市場に売り仕掛けをします。
つまり、日経平均先物にまとまった売りを出す訳です。
通常であれば、まとまった売りが出ても、暫くすれば買い方が出て、大きな値崩れが起こることはありません。
しかしながら、あの時は、日銀総裁が今後の利上げを口にしており、資金が株式から預金に流れ込みやすい環境でした。
ですから、先物へのまとまった売り物を見て、「安いから買おう」という意識より、「ヤバい、更に下がりそうだから売ろう」という意識の方が強くなってしまった訳です。

この結果、先物市場で売りが売りを呼ぶ展開となります。
このため、8月5日(月)はサーキット・ブレーカーが午前と午後の2回発動されていました。
サーキット・ブレーカーとは、相場が急変動した時に、取引を10分間停止して投資家に冷静な対応を促すための措置のことです。
それほどの急激な値動きだったわけです。

先物が急落すれば、先物と現物の価格差が大きくなります。
先物価格が安く、現物価格が高い訳です。
そこで証券会社は利益を確定させようと、「裁定解消の売り」、つまり「先物買い」の「現物売り」をする訳です。
当然、現物が売られる訳ですから、日経平均は大きく下がって行きます。

株価が急落すれば、現物株式を担保に信用取引をしている投資家は困ります。
担保にしている株式の株価が下がることは、担保価値の減少に他なりません。
ですから、減少し過ぎると、追加担保を要求されます。
これを「追証」と言います。

追加担保の差し入れが出来る投資家なら良いのですが、出来なければ建玉を決裁しなければならなくなります。
ここを乗り切れば騰がると考えていても、乗り切らせて貰えない訳です。
自分で売るか、翌日の寄りに証券会社によって強制的に売られてしまう訳です。
これが現在言われている8月5日(月)のメカニズムになります。

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