第135回 裁定取引残高と相場動向の関係
裁定取引は、主に機関投資家が中心となって売買します。
この為、株式市場全体に与える影響は大きく、裁定取引残高の推移を確認することで相場の動向をある程度予測することが出来ます。
まず、前回、裁定取引について説明しました。
その中で、理論価格というものを書きましたが、説明がまだでした。
理論価格とは、現物価格を基準に算出した先物の理論上の価格のことです。
先物取引は現時点ではなく、一定期間後に決済される取引になるため、決済日までの金利が発生します。
現物価格に金利等を付加することで理論価格になるため、決済日に近づくにつれて「現物価格=理論価格」に近づいていきます。
理論価格 = 現物価格×{1+(短期金利-配当利回り)×(残日数/365)}
ここでの「1」は、現物そのものの意味です。
その現物を借金で買うと言う意味で、「短期金利」がプラスされます。
ただ、その現物を保有していると配当金を受け取れるので、「配当利回り」がマイナスされます。
「365」は1年間の日数のことです。
「残日数」は、決済までの日数のことです。
つまり、「残日数」が減れば減るほど理論価格は減少し、「残日数」が「0」になれば、「+α」分は「0」になるため、「理論価格=現物価格」となる訳です。
このように、理論価格は機械的に求めることが出来ます。
ですから、先物価格の変動によって機械的な売買が可能となり、最近ではAIによる自動売買が行われていると言われています。
また「残日数/365」は、「指定されたSQ日までの残日数」のことです。
3月物、6月物等と決裁月が定められて売買されていて、3月物であれば3月のSQ日が決済日になります。
このため、決済日が近づくと、事前に決裁しておこうという思いが働きます。
これが、SQ週の水曜日、木曜日に波乱が多いと言われる所以です。
さて、この裁定取引の残高は、東京証券取引所は毎週第3営業日に前週末の取引残高を発表しています。
https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/program/index.html
この推移を確認することで、相場動向の予測を立てることが出来ます。
それは以前にも説明しましたが、裁定買い残高が多ければ、将来の売り圧力が高まります。
これは、裁定買いが、先物売り、現物買いで構成されているからで、裁定取引を解消する際に現物株が売却されることになるからです。
逆に裁定売り残高が多ければ、将来の買い圧力が高まることになります。
最後に、今年の最低残高は下記のとおりになります。
買い残も、売り残も徐々に増加しています。
買い残高 売り残高
1月 5日 12,811 741
1月12日 13,427 740
1月19日 13,815 750
1月26日 10,802 994
2月 2日 11,865 1,435
2月 9日 12,488 398
2月16日 16,210 380
2月22日 19,598 380
3月 1日 20,525 340
3月 8日 19,214 4,136
3月15日 20,744 4,370
3月22日 22,802 5,042
3月29日 25,487 5,610
4月 5日 25,208 5,821
4月12日 24,713 4,296
4月19日 22,985 4,205
4月26日 20,120 4,176
5月 2日 20,020 4,335
5月10日 18,841 3,542
5月17日 19,375 3,524
5月24日 25,619 3,378
5月31日 25,850 3,477
6月 7日 24,705 3,508
6月14日 20,384 4,267
6月21日 21,118 4,412
6月28日 23,687 4,797
7月 5日 25,129 5,035
7月12日 26,817 5,525
7月19日 26,424 5,550
7月26日 23,134 5,564
8月 2日 21,105 5,638
8月 9日 13,441 6,142
8月16日 15,671 5,393
今年に入って、日経平均が明確に下げたのは、3月中旬から4月中旬。
そして先日の急落の7月中旬から8月初旬です。
どちらも、裁定買い残が急減していることが読み取れます。
ここからも分かるように、裁定取引残高は相場の方向性を探る上で有効な統計指標の一つとみなすことができます。
裁定買い残高が大きく膨れ上がると、そろそろ天井臭いと反落を警戒することが出来るわけです。