第130回 日経平均先物
さて、今回から数回にわたって、派生商品の説明をしたいと思います。
以前、1514住石HDのところで、先物取引の失敗という書き方をしました。
が、実はこの書き方は、厳密な意味では間違っています。
その辺りのことも含めて説明しようと考えていますので、正しく理解して貰えると思います。
日経平均先物とは、日経平均株価を対象にした株価指数先物取引の一つのことです。
日本では大阪取引所に上場されている他、世界ではシンガポール取引所(SGX)、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)に上場されています。
私が良く日経平均先物シカゴCMEと書くのは、ここのことです。
最低取引単位は日経225を1,000倍にした金額です。
つまり、日経平均が4万円なら、その1,000倍の4,000万円からの取り引きということになります。
呼び値は10円、つまり1,000倍なので1万円です。
先物取引ですから、実際の取引価格ではなく証拠金という方法で売買するので、信用取引みたいなものになります。
日経平均先物は取引できる期間が決まっており、この満期月を限月と言います。
3月、6月、9月、12月の各限月について、6月と12月が8年、3月と9月が1年6ヵ月の取引期間となっており、常に19の限月取引が並行して行われています。
各限月の満期日をSQと呼び、第2金曜日の前営業日が取引最終日になります。
このため、SQ前の水曜日や木曜日は波乱が起きやすく、警戒されることになります。
さて、ここで具体的な説明に移りますが、まずは先物取引と、現物取引の違いを理解しておいて貰いたいと思います。
先物取引とは、ある商品を、将来の決められた日に、取引の時点で決められた価格で売買することを約束する取引のことです。
つまり先物取引には、今と未来という2つの時間軸が存在し、未来での売買の予約を今決めてしまおうということです。
例えば、米の先物取引を例に考えてみましょう。
ここに、農家と和菓子屋さんがいます。
まだ田植えをする前の4月に、農家さんと和菓子屋さんが、10月にお米10トンを300万円で売買するという契約を結びました。
これが先物取引なのですが、なぜ4月に契約したかと言えば、価格変動リスク(risk)を回避(hedge)する為に結んだのです。
米の価格は、その年の作柄によって大きく左右されます。
豊作なら米価は下がり、凶作なら米価は騰がる訳です。
米価が騰がると農家は嬉しいですが、和菓子屋さんは困ります。
なぜなら、商品である和菓子の価格は安易に変更することが出来ません。
その為、原材料費が騰がってしまうと、利益が減ってしまうことになるからです。
逆に、米価が下がると和菓子屋は嬉しいのですが、農家は困ります。
なぜなら、多く米が収穫できても結果的に利益が減ってしまう、つまり豊作貧乏になってしまうからです。
そこでお互いが困らないように、4月に売買の契約をするのです。
農家としたら、凶作だった場合に利益が減ってしまうというriskがありますが、最低限の利益が問題なく確保できると言うreturnがあります。
和菓子屋も、豊作だった場合に利益が減ってしまうというriskがありますが、最低限の利益が問題なく確保できると言うreturnがあります。
つまり、作柄に関係なくお互い必要な利益が確保できることから、win-winの関係になれるのが、先物取引だという訳です。
- いやいや、先物取引は危ないと聞いてるよ!! -
そんな声が聞こえてくると思います。
はい、危ない人は、確かにいます。
それは、この話に登場しない第三者の人たちです。
自分でお米を作っている訳でもなく、また使う訳でもない人たち、例えば米屋さんとしましょう。
お米屋さんは、安く買って高く売れば、それだけ利益は大きくなります。
普通に問屋から仕入れてお客さんに売っていても、利益はたかが知れてます。
そこで、この先物取引に目を付けます。
先物取引で安く仕入れて高く売れば、大儲けできるのではないかと・・・・。
そこでお米屋さんは、和菓子屋さんと同じように、お米の先物取引に参加しました。
お米屋さんは、安いと思って先物取引でお米を買ったのですが、この年は豊作で米価は大暴落してしまいました。
安いと思った米価より、更に安くなってしまったのです。
和菓子屋さんは、お米をそのまま売るのではなく、加工して和菓子として売っているのですから、米価が下落したからと言って、和菓子の価格を下げる必要はありません。
だから、普通に問題なく、商売が続けられます。
ところがお米屋さんは、お米を加工して売っている訳では無いので、米価が大暴落すれば売値も大幅に値引きしなければなりません。
つまり、お米屋さんは大赤字になってしまったのです。
このように、お米の価格変動を「risk」と考える人たちにとっては、先物取引は「risk-hedge」のために必要は取引方法となります。
ところが、お米の価格変動を「risk」と考えずに、ある意味「chance」だと考える人たちにとっては、非常に「high-risk」な取引方法になる訳です。
多くの人は、大儲けしようと考えて先物取引に参加する訳ですから、危ないと言われて当然だと言うことです。
そこで、1514住石HDのワンボ炭鉱です。
石炭価格は、新型コロナ感染症の影響で経済が止まってしまい、大きく値崩れしていました。
この新型コロナ感染症の最悪期は、タンカーに積まれた原油が、マイナス金額で売られていたほどです。
マイナス金額、つまりお金を払うから、タンカーの原油を買い取ってくれという意味です。
つまり、それほどエネルギー源の石油、石炭が余っていた訳です。
その結果、その頃の1514住石HDは、配当金を受け取ることが出来なかった訳です。
その後、徐々に経済が回復し、石炭価格も上昇してきました。
そこで、ワンボ炭鉱の経営者たちは考えました。
再び新型コロナが拡大し、石炭価格が反落しても利益を確実に出せるように、先物市場で石炭を売ろうと・・・・。
こうしてワンボ炭鉱の石炭は、先物市場において高値で売られました。
ところが、止められていた経済が再開した訳ですから、エネルギー需要もけた違いに大きくなってしまいます。
その結果、高値の石炭価格は更に更に高値にまで上昇した訳です。
ワンボ炭鉱が恐れた石炭価格の下落とは逆の高騰ということになり、ワンボ炭鉱は更なる高値で売るチャンスを逸したという訳です。
これが、ワンボ炭鉱の先物取引の失敗ですが、これは失敗ではありません。
最低限の利益を確保したいと言うワンボ炭鉱の先物取引の目的は達せられているからです。