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第179回 分厚い「中間層」を復活させるためには!?

国民の層をザックリと分ければ、「富裕層」、「中間層」、「貧困層」の3層に分かれます。
昭和時代の日本は貧富の差が小さく、分厚い「中間層」の社会だと言われていました。
ところが今の日本は、「中間層」が薄くなっています。
ですから、今回の総選挙での立憲民主党の政権政策には、「分厚い中間層の復活」を掲げたわけです。
そこで実際に、「分厚い中間層の復活」が可能かどうか考えてみましょう。

まずは、人口動態です。
下図は、厚生労働省が出している人口ピラミッドの変化です。


     年少者層   勤労者層  高齢者層  勤労者層割合
1990年  3,249万人  7,590万人  1,491万人    61.6%
2015年  2,190万人  7,028万人  3,347万人    55.9%
2025年  1,943万人  6,635万人  3,677万人    54.1%
2065年  1,237万人  4,189万人  3,381万人    47.6%

図的には、勤労者層が大幅減のように見えますが、2025年予想ではそこまで減っていません。
反対に、1990年は「寿退社」という単語があったように、女性は結婚して退職することが一種のステータスになっていました。
ところが最近では、「寿退社」は死語になってしまい、共働きが当たり前の時代になっています。
更に退職年齢は60歳から65歳に引き上げられていることから、2025年は、1990年に比べて、明らかに労働者数は増加していると言えます。

それにも関わらず、日本のGNPが大きく伸びていないのは、労働者一人当たりの生産性が上昇していないからです。
1990年代のキャッチフレーズ「24時間働けますか!?」に代表されるように、当時は休日出勤、残業が当たり前でした。
ところが近年は、ワークライフバランスがクローズアップされ、一人当たりの労働時間は減少しています。
つまりこれが、日本の生産性が上がらない原因と言われています。

ところが主要先進国と比べて、今の日本人の労働時間が短過ぎるという話はありません。
去年、日本を抜いてGDP世界3位になったドイツなどは週4日労働を目指しているほどで、今でも日本は長すぎるんです。
つまり、日本が2位になれたのは、諸外国と比べて労働生産性が高まった訳ではなく、労働時間が単に長かっただけということになります。
どちらかと言えば、原始的な手法で、GDP世界2位の座を手に入れていたことになります。
それが、諸外国並みに労働力を短くした結果、日本はメッキが剥がれて、どんどん諸外国に抜かれるという結果になっています。
つまり、労働時間を短くしたまま「分厚い中間層の復活」をさせるのは、そう簡単ではないということです。

それでも日本人の立場からすれば、「分厚い中間層の復活」させるべきでしょう。
その復活の方法は、2種類あります。
①    「富裕層」を切り崩して、「中間層」にする。
②    「貧困層」を底上げして、「中間層」にする。

当然ながら、②「貧困層」を底上げして、「中間層」にするべきです。
ところが、今の与野党が掲げる政策では、①「富裕層」を切り崩して、「中間層」にするにする政策ばかりです。

企業や富裕層への増税は、①の結果になります。
目先の年金増額や「貧困層」への現金給付は、①の結果になります。
最低賃金を上昇させるのは、①の結果になります。
終身雇用を維持し続けるのは、①の結果になります。

まず増税は、景気減速の「risk」が高いです。
ここの増税は、税金だけでなく、強制的に徴収される社会保険料の増額も含みます。
個人の可処分所得が減少することは、経済循環のエネルギーを減少させることになり、結果として国家の税収を減少させる効果があります。
増税すれば税収が減るというのも、「合成の誤謬」と言うことが出来ます。

「貧困層」が「貧困層」たるのは、労働生産性が低いからです。
そもそも労働生産性が低いのに、そのまま所得だけを増加させれば、社会全体の労働生産性が上昇しません。
社会全体の労働生産性が低いままなら、「貧困層」を「中間層」にするのは、社会全体のレベルを押し下げることになります。

賃金は、そもそも生産性に比例するものです。
日本の賃金が低いのは、大企業が搾取しているのではなく、日本人の労働生産性が低いからです。
数量効果以外の生産性の向上を図る手段を開発しないから、日本の中小企業は競争力が弱いままなんです。
最低賃金を上昇させるためには、それぞれの企業に設備投資を実施させ、労働生産性を向上させることが先決です。
それを実施する前に最低賃金を上昇させると、中小を中心とした多くの企業が倒産することになってしまい、景気が冷え込み、税収が減ることになってしまいます。

日本型雇用の代名詞である終身雇用、年功序列は、経営職層、管理職層を甘やかすことになっています。
本来の経営者は、「risk」を意識しつつ企業経営を変革させる立場にあるはずが、「risk hedge」と称して変革を先送りし、その間に定年退職を迎えて逃げ切ろうと考える訳です。

つまり、「貧困層」を「中間層」に上昇させるためには、究極的には労働生産性の向上が必要となります。
既に社会的認知として、長時間勤務は規制されています。
そうなると、労働の質を向上させなければならないのですが、終身雇用、年功序列では、労働者一人一人が質の向上に励みません。
このため、企業の競争力が高まらず、結果、安易な価格競争が起こり、労働者の所得が増加しないのです。
これを実現するには、やはり自民党しか今のところは無いでしょう。

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