見出し画像

第161回 割安でも買われない理由(簿外債務等)

貸借対象表に書かれている「資産」について、前回までに説明しました。
貸借対照表は法律で定められた適切な書類なのですが、読み解きやすいように作り方を機械的にしています。
その為に、「評価額」に関しては、現実とは合致しないという側面がある訳です。
企業が保有する「在庫」「土地」、「建物」、「設備」などの価値は、現実に売れないことには正確な数字は分かりません。
そう言う部分で、貸借対照表は正確ではないと言える訳で、投資家はその部分を割り引いて企業を評価しなければなりません。

そして更に問題になるのが、簿外債務の存在です。
簿外とは、当然帳簿外という意味で、貸借対照表には載って来ない債務のことです。

- どうしてそんな債務があるのだろう・・・・ -

そう不思議に思うかもしれませんが、これは法律で決まっていることですから、仕方がないことなのです。
そして簿外債務があるから、株価が割安に見えるとも言える訳です。

さて本題の説明です。
その企業に関する本来の債務は、負債として貸借対照表に全て計上されています。
ところが、そうで無い債務が存在するので、投資家としては企業の財産の全貌を見極めることが難しくなる訳です。

まず、この簿外債務で有名なものでは、先取特権があります。
先取特権とは、法律で定められた債権を有する者は他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利のことです。
法学部卒で無い人には聞いたことが無いような権利ですが、所有権や抵当権と同じように、民法で定められている物権の一つになります。
この先取特権で定められている債権に、「給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権」を含むと書かれています。
つまり、社員の給与は他の債券に優先して支払わなければならないということです。

- いやいや、解雇したら良いだけだろう -

そう簡単に考える人がいるかもしれません。
しかしながら日本の法律では、解雇は大きく制限されています。
更に、解雇が認められたとしても、解雇予告手当や退職金、更に違約金などの支払いもしなければならないかもしれません。
つまり、企業を清算する場合は、簿外債務として多額の人件費が発生するということなのです。

他には、債務保証いうものがあります。
債務保証というのは、他社や他人の債務を保証するということです。
人で言えば、保証人や連帯保証人になるということです。
その他社が約束通り債務を履行すれば良いのですが、履行しなかった場合は代わりに履行しなければなりません。

つまり、保証した時には、貸借対照表には何ら記載がありません。
ところが、保証した他社が支払えなくなった途端、負債として計上して来るのです。
通常、特別損失として計上しますが、投資家としては事前に知ることが出来ない負債ということになります。

更に訴訟リスクもあります。
訴訟リスクというのは、その企業を相手取って訴訟を提起された場合、その対応をしなければならないということです。
それこそ、社員を解雇すると決めた場合、社員側から「解雇無効の訴え」を提起された場合、それに反訴しなければなりません。
その為の弁護士費用等を含めた訴訟費用、更に敗訴した時の損害賠償金などが、この訴訟リスクになってきます。

実は、日本企業の株価は、諸外国に比べて割安だと言われています。
それは、この簿外債務の存在が一因だとも言われています。
簿外債務と言いましたが、実際は「給与等の人件費」です。

日本市場で売買している投資家の6割は外国人です。
つまり、日本人ではなく、外国人の考えにより、日々の株価は変動している訳です。
その外国人にとって、日本の労働慣行などは未知の部分が多く「risk」でしかありません。
理解すれば「no-risk」「low-risk」なのかもしれませんが、自分たちの考えと根本的に違うことは、知ることは出来ても、理解することはなかなか難しいです。

そういう時には「risk hedge」の為に「safety margin(セーフティ マージン)を広めに設定するのは常識です。
「margin(マージン)と言われれば「手数料」の意味を思い出しますが、今回の場合は「空白」の方の意味です。
「safety margin」は、安全性確保のために持たされているあそびや余裕のことで、自動車の運転の時などに使われます。
つまり、「safety margin」を広めにとっているから、諸外国の株式と比べて割安になっている訳です。

いいなと思ったら応援しよう!