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第45回 『価値観の逆転現象』が起こる理由

人にとって食べ物は、生き延びる為には最も必要なものです。
それなのに、どうして疎かにしてしまうのでしょうか・・・・。
疎かにさえしていなければ、「例えの村」の10人は、餓死などしなくても済んだのです・・・・。

実は、彼らの認識では、決して疎かにしていた訳ではありません。
ただ彼らは、『効率化』という罠に嵌っただけなのです。
効率化という言葉がピンと来なければ、『ムダを省く』と言い換えても良いです。
『ムダを省く』という言葉は、耳障りが非常に良いです。
今の日本、そこら中で『ムダを省く』という言葉が使われています。
ムダ、つまり要らないもの、それを省くのは良いことだと信じて、誰もが疑う気持ちを持ちません。
しかし、それが本当に良いことなのかどうかは、吟味しないといけません。

ムダを省くことが、どうして良くない可能性があるのか!?
そう疑問に思う人は多いでしょう。
それは、2回前の10人の行動を思い出して下さい。
全員で農業を止めて首飾りを作る方が、多くの収入が得られる。
生産性の低い農業をするより、生産性が高い首飾り作りの方が効率的で、ムダの無い生活になると彼らは判断したからです。

それならどうして、そう判断するのに至ったのか!?
人は、豊かさを追求します。
不要なモノを生産することは、非効率に他ならないし、豊かさの追求に反した行動です。
ならば、食べ物が不要なのかと聞かれれば、決してそんなことはありません。
彼らも、食べ物の重要性は、理解していました。

しかし、食べ物にこだわり過ぎると、効率性が阻害されてしまい、豊かさを追求できません。
10人が首飾りではなく、農業を取っていれば、彼らが食糧不足で全滅することは無かったでしょうが、豊かにもなれていなかったはいずです。

こう書けば、貧しくても死ぬよりマシだと考える人が多いでしょう。
ところが、貧しくても食料生産さえしていれば生き延びられるのかと聞かれれば、必ずしもそうだとは言い切れません。
なぜなら、彼らが全滅する原因が、食糧難だけでは無いからです。
火事、洪水、疫病、戦争・・・・、人が死ぬ原因は幾つもあります。
この中には、豊かであれば回避できる原因もあります。
あると言うより、その方が圧倒的に多いのです。
だから人は、豊かさを求めるのです。

つまり、豊かさを追求しなければ、様々な要因で全滅するという『risk』を放置することになってしまいます。
かと言って、豊かさを追求し過ぎれば、食糧難で全滅する『risk』が高まります。
どちらも『risk』があるのですが、様々な要因で全滅するという『risk』を『hedge』するために豊かさを目指すのだと考えた場合には、『hedge』した結果、餓死という新たな『risk』を増大させたということになります。
そうなると、食糧難で餓死することは、『hedge』により新たに生じた『risk』とし、『hedge』できていないということになり、『risk management』の失敗という結果に行き着く訳です。

実は、こういうことは、日々当たり前のように起きています。
例えば、国防問題なんかがそうです。

国防とは、誰もが知っているように、外国から攻め込まれないよう防衛することです。
日本では、その予算はGDPの1%に相当する額に設定しています。
しかし、他国から攻め込まれない限り、この予算は全くのムダです。
だから、その分の予算を他の事業に振り向けた方が効率的で、国民は豊かになるのは間違いありません。
だから、自衛隊反対を当たり前のように叫ぶ輩がいるのです。

しかし、防衛費を縮小した結果、他国から攻められたらどうするのかという問題に行きつきます。
例えば、三国志で有名な魏呉蜀を統一した晋。
この国は、数十年で傾いてしまいます。
その原因は、軍縮でした。
国内を統一したことから、皇帝の司馬炎が軍費を1/10に縮小したのです、もったいないと言って・・・・。
その結果、北方異民族に対する備えが疎かになり、その侵略を許すことになってしまったのです。
つまり、軍備を疎かにしたことで、侵略という非常事態を招いてしまったということです。

このように『価値観の逆転現象』を生む種は、豊かさの追求にあると言って過言ではありません。
ただ、豊かさの追求は、贅沢の追求というのと同意ではなく、あくまで『risk management』の結果としてです。
だから、豊かさを追求することを、決して止めることはできません。
つまり、『価値観の逆転現象』が発生する『risk』は、我々の生活の中には、絶えず存在しているということになるのです。
ならば、我々に残された道は、この『価値観の逆転現象』が起こることを『hedge』しつつ、上手に付き合っていく他ないのです。

能登から戻ってきました。
まだ復興途上ですが、着実にその歩みは進んでいます。
ところが、現状と人の感覚は違いますね。
多くの日本人は、復興作業もそろそろ終了に近いと感じているのではないでしょうか!?
実際は、公費解体など本当の復興作業は始まったばかりで、これから本格化するそうです。
その後、自宅の建て直しなどになるため、能登の人たちが普通の生活に戻れるのは、今から数年後と言えるでしょう。


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