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第205回 李下に冠を正さず

「李下に冠を正さず」という一節の語源は、中国の漢詩の一つである楽府詩「君子行」です。
楽府詩というのは、中国で民間伝承の詩(話)を集めたもので、日本で言うところの民話集のようなものです。

君子防未然、不處嫌疑間
瓜田不納履、李下不正冠

賢明な人は嫌疑をかけられるような行いをせずに、災いを未然に防ぐものである。
靴が脱げても瓜の畑では履き直さないし、李の木の下では冠を正したりしない。

つまり、「risk management」の出来る人は、「risk」が大きくなるようなことはせず、当然ながらどんな時でも「hedge」を心がけるものです。
例えば、ウリ畑で靴が脱げても屈んで靴を履き直さないし、スモモの木の下で冠が歪んでいることに気づいても手を挙げて直そうとはしないでしょう。
どちらも、ウリ泥棒、スモモ泥棒に間違われる可能性があるからです。

日本では最後の部分の「李下に冠を正さず」という言葉だけが広く知られています。
誰でも、小学生時代に1度は耳にしたことがあるのではないかと思います。

- 疑われるようなことはするな!! -

そういう注意を受けるときに、使われる一節だと思います。

さて、この一節は、紛れもなく「risk management」の考えが根底にあるものです。
中国では、皇帝や王、諸侯の権威が強く、時代によって疑われることは死を意味することもありました。
ですから、疑われないようにすることが生き抜くために必要だった訳です。

今回、これを持ってきたのは、当然ながら斎藤兵庫県知事の問題があるからです。
本当は、斎藤知事に関する話は、もう終わりにしようと思っていました、飽きましたし・・・・。
ところが、選挙後にも同じような問題が出るのですから、これは書けということだろうと思い直し、書くことにしました。

実は、斎藤知事の問題の根本は、この「risk management」の初歩とも言える「李下に冠を正さず」という意識が、彼の考えの中に存在しないということです。

靴を履き直しているだけだから問題ないだろ!!
冠を正しているだけだから問題ないだろ!!

そういう意識で、物事を考えている人なのだと推定できます。
ですから、「法的責任」は理解できても、「道義的責任」は理解できないんです。
「法的責任」は、実際にウリやスモモを盗むこと。
「道義的責任」は、ウリやスモモを盗んでいるように勘違いされる行為をすること。
そしてこのことは、百条委員会で堂々と本人の口から語られています。

実は、「法的責任」については、白と黒の間に、幅広いグレーの部分、つまり「道義的責任」が存在します。
「疑わしきは罰せず」という理論では、このグレーの部分では罰せず、黒の部分だけ罰するという意味になります。
我々日本人は、このグレーの部分に出来るだけ踏み込まないようにすることで、安全な社会を保っている訳です。

例えば、日本の飲食店で予約をしても、前金を請求されることは殆どありません。
これは、無断キャンセルをして店舗側に損害を出させないという暗黙の了解が、店側と客側に存在しているからです。
この暗黙のルールというのが、「道義」と言うものです。

この暗黙のルールが、韓国には存在しません。
ですから、無断キャンセルをすることは当たり前です。
無断キャンセルされる店側が悪いとなる訳です。
店側としては、当然ながら対抗策として、事前支払いを求める訳で、そういう観点から韓国ではカード払いの普及が非常に速かったのです。

つまり、その国の文化の違いによっては、危険負担の責任か、客側か、店側かに違いがあるのです。
日本では客側であり、韓国では店側にある訳です。
この違いの部分が、実際のところはグレー部分だと考えられるのです。

そして、このグレーの部分こそが「risk」になります。
なぜなら、それは立場や見方によって、白にでも、黒にでも変化してしまうからです。
齋藤知事自身も、自分は白だと考えつつも、周囲から黒と決めつけられて、ここ最近は嫌な思いばかりをしていたと思います。
自分の白という意見に耳を貸してもらえず、黒という決めつけで社会が動いている。
実際、こんな怖いことはありません。

が、そんな経験をしたのに、どうして選挙期間中にまたまたグレーなことをするんでしょうか!?
グレーで嫌な思いをしてきたのですから、普通の感覚ならグレーを避けるでしょう。
ところが斎藤知事は避けない・・・・。
私から見れば、そういう人は「risk」不感症です。
関わると「high-risk」な状況に巻き込まれることになるので、近寄りたくは無いですね。
また、「risk」不感症の人が政治家になること自体が、県民にとって大きな「risk」になります。
なんせ政治とは、「risk management」とイコールです。
「risk」が分からない人に、「risk management」が出来る訳無いからです。


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