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【散文詩】黒薔薇譚

私の家族はみんな変わり者
友達なんて一人もいないし
いない方が幸せだと思っていた
だから我が家を訪ねる人はとても少なく
お外の誰かが家族の誰かにあげた花束は
私にとっては珍しく興味深いものだった

健康的な肌の色したバラの花
花瓶に活けられたそれを見て私は思った
「かわいそうに。人間に捕まりさえしなければ
命が短くなることはなかったのに」

花束が少しづつ萎れていく
私にはこの子達を救うことはできない
いっそくずかごに捨ててしまおうか
そんなことはできない…

夕方父親が庭で焚き火を始めた
私は花束を新聞紙に包んで焚き火の中に投げ入れた
火葬すればもう花の苦しみのことで頭を悩ませることはない

燃え殻の中を探ると驚くべきものが出て来た
少し萎びていたアプリコット色のバラが
炭化して漆黒の黒バラになっていた
黒バラは私の宝物になった

けれどその黒バラも私を悩ませる
花びらに触れると
それは薄いガラスのように脆いことが分かる
いつかうっかり壊してしまうだろう

その「いつか」はたぶん訪れなかった
その黒バラはいつの間にか私の手を離れていた
壊したのか捨てたのか
あげたのか盗まれたのか
少女の頃のことはよく覚えていない
忘れたかったのだろう

少食ゆえ野菜類を好み
魚肉はかわいそうだからといって食べない
盲目でなんの楽しみもない家鴨に存分に手を噛ませ
道路に落ちている虫の死骸を集めて墓を作る
そんな十代だった

(努力家の母は慈悲深さゆえに愛される妹を妬んでいたという
その妹に私はそっくりだったという
母親に憎悪されていたことに気づいたのは大人になってから
ともかく火にくべられた黒バラはそうでないバラと等しく美しかった)

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