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【詩】私が天使だった頃

私が四、五歳の頃
住んでいる集落はすごく平和で
玄関に鍵もかけてなかった

「いちかちゃーん あーそーぼー」
近所の女ガキ大将が遊びに来た
でもその日は誘いに乗らなかった

「あれ?いちかちゃんの靴がないよ
まあ バケツにたまった泥水の中に浸けられてる
本当にあの子は悪ガキね」
と お母さん

私はガキ大将のあの子が大好きで
靴を汚されても腹が立たなかった
悲しいとも思わなかった
人の悪意をまだ知らなかったのだ

あの子はおじいちゃんおばあちゃんと暮らしている
ある時あの子のお父さんが車でやって来た

親がいるのにどうして祖父母と暮らしているんだろう
複雑なのかな とか
家庭で傷ついているのかな とか
そんなことを勘繰る知恵もなかった

お姉ちゃん あの子と線路に石を置くよ
お母さん あの子と落とし穴を作って車を落とすよ
ダメなの?なんで閉じ込めるの?

あの頃はまだ事の良し悪しも分からない子供だった
それでこの話は終わりにするつもりだった

だが奇妙なことに気づいてしまった
あの子の悪だくみや意地悪は私には意味も分からない
それならなぜ何十年も克明に覚えている?

心の隅では気づいていたんだ
分かってしまうとどうしていいのか分からないから
心の深い深い奥底に
あの子の意地悪や悪さを隠してしまったんだ

泣きじゃくりながら近所を歩いていると
あの子は「どうしたの?」と言って
お菓子を分けてくれた

あの子は大事な友達だった
たとえ心がひび割れてしまっても
今覚えた怒りと痛みは
あの頃の彼女のものかも知れない

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