ANYCOLOR 2025年第1期決算について

以下はANYCOLOR株式会社の2025年4月期 第1四半期決算を踏まえた記事である。序盤では決算のポイントを要約・整理し、中盤では市場動向や業界状況と対比、終盤では筆者としての所感を示す。


【決算概要と注目ポイント】

ANYCOLOR(5032)が発表した2025年4月期第1四半期業績は、売上高74億3,600万円、営業利益27億1,900万円、当期純利益18億7,900万円となり、会社側が示していた当初見通しから約10%弱の下振れとなった。主な要因はイベント領域とコマース(物販)領域での失速だ。特にイベントは開催直前の中止や延期が相次ぎ、本来4億円台後半を期待していた売上が2,000万円弱に留まる大幅な下振れを記録。また、イベント不開催の影響は物販にも波及し、関連グッズの売上喪失や販売時期の期ずれが重なった結果、コマース領域でも4~5億円程度の想定下振れが生じた。

一方、ライブストリーミングやプロモーション領域はほぼ計画通りの推移。「YouTube」での再生数増加や、多様なクライアント案件の獲得により、足元の視聴数や認知度は引き続き好調に推移している。VTuber数は166名に拡大し、ANYCOLOR IDも増加傾向だ。固定コスト(人件費等)が拡大している中、第1四半期の売上下振れは営業利益率低下につながったが、同社は第2四半期以降コマース領域の立て直しや新グッズ戦略などで巻き返しを図る考えだ。


【市場環境との関連と分析】

ここで市場全体やVTuber業界の文脈を踏まえてみよう。VTuber市場は拡大期を経て一定の成熟過程に入っているが、その中でANYCOLORは国内有数のVTuberグループ「にじさんじ」を軸に多面的なビジネスモデルを展開している。映像配信(ライブストリーミング)はコロナ禍を経てエンタメ消費のデジタルシフトを加速し、今も巨大なファンコミュニティを維持している。

一方、イベント事業はリアルとオンラインを組み合わせた多面的な収益機会を与える半面、開催そのものが外部要因に左右されやすい。今回のイベント中止・延期は、収益計画に大きな影響を与え、付随するコマース領域(グッズ販売)に波及した。イベントドリブンで売上を伸ばす戦略はファンダム強化の近道だが、同社は今後、リスクヘッジとしてオンライン施策やトレンドを意識した商品企画での安定的な収益確保が求められる。

また、期ずれ問題も浮上した。人気グッズやメディア商材(ブルーレイ、CDなど)は、販売時期のコントロールやトレンドとのマッチングが収益計画の成否を左右する。VTuberビジネスはコンテンツ・キャラクター商売であるため、「今売れるもの」をタイミング良く市場投入するオペレーションが肝要だ。コロナ後のイベント復調や海外展開(NIJISANJI EN)拡大など、長期的な成長余地はなお大きいが、今回の決算は「計画に対する実行精度」や「供給タイミングの最適化」が課題として浮き彫りになったと言える。


【終盤:筆者の見解】

ANYCOLORの第1四半期は、計画未達でのスタートとなったが、これを過度に悲観する必要はない。VTuber市場はまだ成長過程にあり、新規デビューや新ユニットの人気拡大など、ファンダムの深化が着実に進む。同社はプロモーションやライブストリーミングでの好調さを維持しており、今後はイベント再開やコマース領域の改善策(トレンド商材や新規デザイン、魅力的なコラボ企画)が功を奏す可能性が高い。

しかし、ただ闇雲に商材を用意すれば良いわけではない。需要予測、販売時期の最適化、海外マーケットへの戦略的アプローチ、メディア商材やIP展開など、多面的なオペレーションが求められる。過去には「にじさんじフェス」など大きな成功例があり、経験値は蓄積されているはずだ。それをどれだけ再利用・再強化できるかが、Q2以降の挽回の鍵となる。

大胆な自己株式取得や有形・無形資産への投資から見ても、同社は中長期成長に自信を持つ態度を示している。株主目線ではやや不安が残る下振れスタートだが、業界トップクラスの知名度とクリエイティビティを有するANYCOLORが、VTuber×エンタメ市場の「次の一手」をどこまで成功させるかは、依然として注目に値する。

総じて、失速感よりも改善余地が強調される決算だと言えよう。成長市場のリーダー企業として、ANYCOLORが新たな商材戦略やイベント企画でファンと市場の期待に応えていくか、今後も注視していきたい。

いいなと思ったら応援しよう!