東風戦の広報として
高校時代の部活仲間とゴルフに興じ、やや遅めの昼食がてら飲んでいると、麻雀の話題になりました。部長を務めていたO氏が職場の連中をカモにしているのだと胸を張り、それに乗っかるように方々から「俺はあの有名プロと打った」「実は雀魂でなんちゃら」と武勇伝が被せられ、それではセットでもしようじゃないかという流れに。メンツは「ルールくらいなら分かる」と嘘をついた私含めて五名集まりました。
抜け番アリの四人麻雀です。平素より東風戦の人口が増えないことに危機感を抱いている私は、ここぞとばかりに提案しました。
「半荘戦だと待ち時間長くなっちゃうからその半分のやつにしない?」
店の取り決めが厳しすぎてなかなか南入しない"条件付き東南戦"ではなく、純粋な東風戦をやろうというサジェストです。これから繁華街に行って雀荘に入るとなると、とれる時間は3hくらいだったので、この発案は案外素直に受け入れてもらえました。
ウマは1-3、赤は3枚で500p。よくある東南戦をただ半分の時間でやるようなイメージです。この程度のレートであれば、私の目的は勝利ではなく、彼らを東風戦の虜にすることに決まりました。
1ゲーム目は抜け番を自ら選択しました。手つきの覚束ない彼らの中で、親のO氏だけはそれなりに打てる様子です。彼の配牌には赤が2枚、西が対子。いきなりのチャンス手ですが、私はあの確認をしていないことを思い出しました。
「東風戦って西も場風だったよね?」
なにそれ?の大合唱を制して、東西場と1本場1500点を彼らの脳みそに流し入れました。それなりの大学からそれなりの企業に入り、社会の第一線で活躍している成人男性なら、そのくらいの適応はなんてことないはずです。O氏は無事2巡目の西を鳴き、西赤赤ドラの親マンを和了しました。
2着が抜けるルールだったので、某プロと同卓したノーレートフリーの猛者と私が交代しました。O氏の対面です。初戦いいところがなかった銀の間の帝王の上家なのは好都合。彼にハマってもらうことにしました。
東1局、メンツの中で最も手つきの怪しいK氏の親がさっさと流れ、自分の親番になりました。速やかにダブ東を仕掛け、銀の間の帝王を煽ります。
「東風戦って親マン和了るとだいたいトップ決まるから頑張らないとな~」
自分が頑張るように見せかけて、銀の間の帝王を頑張らせる煽りです。親の連チャン南家の責任。古臭い格言ですが、親から出てくる甘い牌を仕掛けやすい南家は、その判断力が求められます。
普通に手を進めていると、6巡目に切った私の八筒に対し、銀の間の帝王が両面チーをしてきました。
「うわ、かわされちゃうよ!」
大袈裟にリアクションします。帝王は誇らしそうです。そうそう、自分が本手を和了するだけではなく、誰かの本手を潰すのが東風戦の醍醐味です。それに、東南戦では単なるかわし手だって、東風戦では十分な加点になります。
キー牌になりそうな中張牌をバラ切りしているうちに、帝王が和了しました。両面チーから入って三副露2000点。
「ちょっと、渋すぎるって!このメンツじゃキツいよ(笑)」
フリー雀荘で自分の腕を誇ってそうな相手にも同じ太鼓持ちをするのですが、これが効果覿面なんですよね。基本的には得た金銭以外に自尊心が満たされない麻雀遊戯ですが、彼らは心のどこかで自分を認めてもらいたがっています。それは私も同じです。言われて嬉しいことを言ってあげれば、2000点以上の脳汁を出してもらえます。
帝王の親番を今度は私が1000-2000でかわします。どうよ、オレら、真剣勝負してるっしょ?という視線を彼に流すと、高校時代に模試の点数を競って池袋東口のファミリーマートで自習をしたあの日々を思い出したかのような、そんなエモーショナルな微笑みで返してくれました。
オーラス、小場が続いたせいでトップ目に立ってしまった私は、誰かに和了してもらうために手を崩していきます。ラス親のO氏が白を仕掛け、初心者K氏がリーチ。2着の帝王が受けます。O氏が放銃する前に私が振らないといけません。しかし、ノーレートフリーの猛者が私の後ろで見ています。あまりにも不自然な差し込みはできないので、中筋あたりに活路を見出しました。
「ロン!」
K氏の手はリーチタンヤオ三色。手作りの結果というより、そうなってしまった三色ですが、私はここぞとばかりに褒めます。
「いやあ、スジが当たるのはキツいって(笑)」
一度の放銃でラスになるのが東風戦の面白いところ。そしてボーッとオリていた帝王は2着に浮上。オリてたらいいことあるなと満足気。O氏もラスは回避して満足気。
それからというもの、ワイワイと盛り上がりながらゲームは繰り返され、家族持ちのO氏が奥様からの鬼電を受けるまで延長し、結果的に私は56,000ジンバブエドルほど勝ちました。その頃には私がそれなりに麻雀をしているということはバレていて、嘘をついた罰として全員にピンサロを奢ることになりました。
新聞記事で見たことがある某力士にそっくりな女性から少し痛いくらいの愛撫をされながら、彼らにどこの条件付き東南戦雀荘を紹介しようか考えていると、次第に陰茎は萎んで、嬢との間に気まずい空気が流れてしまいました。
ちんちんと卓は立つに限ります。