世界中の誰も結末を知らない壮大なドラマ。いよいよ最終章へ。
あの日を覚えているだろうか。8月8日。県営大宮球場の悪夢。
先発の松本が早々に5失点を喫する立ち上がりも、粘り強く追い上げ7回に木村の2ランで同点。延長10回に勝ち越されるも、その裏二死からまたしても木村が起死回生の本塁打を放ち同点。昨年の「強いライオンズ」が戻ってきたかと期待した刹那、11回表にまさかの4失点であえなく敗戦。4位に転落。
ぼくはこの日、はっきりと今年のライオンズに「限界」を感じた。劣勢を土壇場で二度追いつく劇的な展開を勝ちきれない。明らかに昨年のライオンズとは違う、そう思った。それまでも投懐による大味な試合が続いたこともあり、今年はCS争いがせいぜいだろうと感じた。
そこからわずか1か月あまり。まさか130試合目にして首位に立つ日がくるとは、まったく想像できなかった。ファン歴30年以上の「経験」による予想や感覚なんて、笑えるほどアテにならないことがよくわかった。そして、この想像を超えたドラマを目撃できることこそ、ファンであり続ける醍醐味なのだ。
今では、攻撃陣は相変わらず充実しているうえに、投手陣も立ち直り、先発もリリーフもしっかりと役割を果たす試合が続いている。1か月前とは別の意味で「昨年とは違う」と思えるのは、決して勢いだけで快進撃をしているのではなく「横綱相撲」で勝っていることだ。
好投手相手にはチーム全員で粘り強く立ち向かい、少ないチャンスをものにする。守りでも、ここぞという場面での併殺や、外野⇒内野⇒捕手への中継など、一つひとつのプレーの精度がとても高い。ほぼ固定されたメンバーで、お互いの動きを分かり合えてることの強みでもあるだろう。
そんな中で、特に今年の進化を感じるのは「走塁力」だ。一本のヒット、一本の外野フライで「一つでも先の塁へ」という意識が非常に強い。走者一塁から、二塁打一本でホームまで帰ってくる。バックホームされた隙に打者走者が二塁・三塁を陥れる。センターフライでも躊躇なく二塁から三塁へタッチアップする。そんな場面を何度も見てきた。俊足と言われる選手だけでなく、中村や森の走塁も随所で光っているし、山川だって意識の高さを感じる。
もちろん選手自身の努力やセンスの賜物だろうけど、その陰にはおそらく黒田・佐藤友両コーチを中心にした適切な指導と状況判断、積極的なミスを責めない監督の姿勢など、積み重ねてきたことが実を結んでいると思われる。
首位を奪ったとはいえ、まだ0.5差。残り試合はどれも負けられないことに変わりはない。でも、どんな結末を迎えたとしても、これほど極上なクライマックスを見届ける幸せを与えてくれたライオンズに心から感謝したい。