増田達至 ~100%応援目線の獅子図鑑⑥~
20年近いサラリーマン人生で「尊敬できる先輩」と出会ったことがある。彼はあまり自己主張するタイプではなく、仕事はできるがことさら成果をアピールすることはない。だから偉い人の目にはとまりにくく、出世が早いとはいえない。でも周囲は誰もが彼の能力を知っているし頼りにしている。ぼくはその人がとてもカッコいいと思っていた。「男は黙って…」なんて時代でもないだろうが、成功して偉ぶらず、失敗して言い訳せず。ぼくもそうありたいとずっと思っていた、憧れの存在である。
増田達至を見ていると、その先輩を想い出す。
入団から7年目を迎え、積み重ねた登板数は350(8/28現在)。毎年のようにリリーフが課題と言われるライオンズにおいて、増田は頼みの綱。
同期入団の髙橋朋をはじめ、ウィリアムス、シュリッター、牧田など「相棒」は変われど、増田だけはマウンドに立ち続け、屋台骨を支えている。
その絶大な貢献度に比して注目度が大きくないと感じてしまうのは、あまりタイトルと縁がないからだろう。2015年に最多ホールドを獲得したとはいえ、実力的には毎年セーブ王争いをしていてもおかしくない。
しかしそうはならない。どんな場面・役割でも受け入れ投げてくれる増田は、いわゆる「シチュエーション」に関わらず投入される。同点の場面はもちろん、たとえ5点差つけて勝っていようが、ほかの投手では不安となると監督の口は「増田」と動く。
その結果、今年は51試合56イニングを投げながらセーブは21、HPは10。負けは1しかないから、20試合近くは本来「クローザー」が起用されるはずのない場面で投げているということだ。
ちなみに楽天の松井は増田とほぼ同じ登板数(56)、イニング(58)だが、セーブ30、HP14、負けが6。ほとんどがセーブ・ホールドシチュエーションでの起用だ。
チームの勝利のために任せられた場面で全力を尽くす。もちろん口ではみんなそう言う。でも実際はそうもいかないだろう。強烈な個性をもった個人事業主の集まりであるプロ野球。何よりもまずは自分の成績とコンディション管理が一番であるはずだ。増田ほどの実力があれば、もっと慎重かつ限定された起用を求めてもおかしくないだろう。でも彼は淡々とマウンドに上がり、うなりをあげる剛球で打者を制圧する。カッコよすぎだ。
ぼくの尊敬する控えめな先輩は出世が遅かったが、増田は今年の圧倒的な活躍に見合う最高の評価がされることを信じている。試合終了を聞いた時のホッとした笑顔を、ライオンズのユニフォームでいつまでも見せてほしい。