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一番嫌いな言葉 「感動をありがとう」

昔から「感動をありがとう」というセリフが好きではない。テレビのアナウンサーが連発する「感動をありがとう」新聞広告に大きな文字で踊る「感動をありがとう」。まるでとってつけたような安易な言葉。このアナウンサーは、広告コピーを書いた人は、どれだけ本当に「ありがとう」と思っているのか。その気持ちの薄っぺらさが透けて見える。そのうち、言葉そのものが嫌いになっていった。


優勝から一夜明け、西武ライオンズの選手たちの会見やインタビュー記事を片っ端から読みふける至福の時間。子どもの頃からライオンズ優勝のたびに経験してきたことだけど、今では選手のひとつひとつの言葉への「共感」が深まっている自分に気が付いた。


年齢を重ね、もちろんプロ野球選手とは比べるべくもないが、仕事にも多少の責任とプレッシャーを背負うようになった。子どもの成長を喜びながら、家族を守っていくことの重さを感じることも多い。40歳を過ぎてようやく、選手たちの「人間」としての心情まで理解できるようになってきたのかもしれない。


シーズンを捕手一本でいくと決意して臨んだ森友哉。「投手力が弱い」と言われ続け、さらには岡田の離脱でどれだけの不安と苦悩を抱えただろう。
不振で4番を外された山川の、ビールかけで見せた、「嬉しい」と言いながらも悔しさを隠し切れない表情。
代わりに4番を背負い、勝利と自身の生き残りをかけて「こだわり」を捨てチームバッティングに徹した中村の覚悟。
「鉄腕」と称えられながら、終盤に思うような結果を出せず、優勝の瞬間に安堵の涙を見せた平井…


「足が速い」「守備が華麗」「ホームランが打てる」プロ野球選手のそんなカッコよさにときめいていたぼくは、いつしか、もがき苦しみながらもそこから逃げずに戦う姿そのものを、心底「カッコいい」と思うようになっていた。


ホームランは打てないけど、でも、責任から逃げず、自身の欠点をみつめ、批判されることを恐れず、地道に努力を続けることはぼくにだってできるはずだ。彼らの喜ぶ姿を見て、語る言葉を聞いて、無性に胸の奥が熱くなる自分を感じた。


できれば言いたくない。でも、こんな気持ちにさせてくれたライオンズの選手たちに、言わずにはいられない。いや、正直、言いたくてたまらない。感動をありがとう。

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