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過去の大地震の際、証券市場では何が起きたか【後編】
注:この記事は前回投稿した「投資目線で地震に備えるには?」があまりにも情報を詰め込みすぎて読みにくかったため、同記事を2回に分け、それぞれの内容を拡充するものです。
株以外はどう動く?
前回では地震が与える影響について、特に株式市場に着目して解説しました。後編となる本記事では、地震が株式以外の投資商品相場に与える影響について、同様に掘り下げていきます。中には間接的に企業の業績に影響を与えるものも多いため、株式投資にも役立つはずです。
1. 債券市場への影響
地震が発生すると、投資家はリスクを避けようと安全資産である国債に資金を移す傾向があります。東日本大震災では、10年物国債利回りが震災直後に0.2%低下しました。また、短期債も一時的に利回りが低下し、投資家の動揺が市場に反映されました。一方、被災地の復興を支えるために新規の国債が発行されることも多く、供給が増えることで利回りに長期的な影響を与えることがあります。
地方債に関しては、被災地の信用リスクが上昇するため、一部の地方債価格が下落します。しかし、復興需要の高まりとともにこれらの地方債も徐々に安定していきます。また、震災後には新たな地方債が発行され、地域経済の再建に向けた資金調達が進むケースもあります。
2. 不動産市場への影響
地震は不動産市場にも多大な影響を及ぼします。被災地では住宅価格が短期的に下落することが一般的ですが、復興需要が高まることで耐震性の高い住宅への需要が増え、特定の地域では価格が回復する傾向があります。例えば、震災後には耐震リフォームが進み、新築物件への需要が一部地域で急増することがあります。
商業不動産も同様に、地震直後は価格が下落することが多いです。しかし、復興プロジェクトが進む中で、再開発エリアの商業不動産は価値を取り戻し、投資需要が増加します。また、震災を契機に企業が本社や拠点を移転する動きも見られ、新たな需要が生まれることがあります。不動産投資信託(REIT)は、震災後の混乱で一時的な価格下落を経験しますが、復興期待が高まると価格が回復する傾向があります。特に、建設関連のポートフォリオを持つREITは、回復が早い傾向にあります。
3. コモディティ市場への影響
地震はコモディティ市場にも影響を及ぼします。エネルギー分野では、地震による原発停止やエネルギー需給の変化が火力発電用のLNG(液化天然ガス)価格を押し上げる要因となります。実際、東日本大震災ではLNG価格が20%以上上昇しました。同様に能登半島地震でも、地域的なエネルギー需要の増加がLNG価格に影響を与えています。
金(ゴールド)は地震後、安全資産としての需要が高まり価格が短期的に上昇します。この現象は、投資家が地震による不確実性に対応するため、安定した資産に資金を移す傾向を反映しています。長期的には、経済の安定化に伴い金価格は通常水準に戻ることが多いです。建設資材については、セメント、鉄鋼、木材などが被災地のインフラ復旧に伴い需要が急増し、価格が上昇します。これらの資材の需要増加は、建設資材関連企業やコモディティ市場にも大きな影響を与えます。
4. 通貨市場への影響
通貨市場においては、地震後、安全通貨とされる円が買われる傾向があります。東日本大震災では、一時1ドル=76円台まで円高が進行しました。円高は日本企業の輸出競争力に影響を与え、企業の外貨収益の減少という課題を引き起こします。さらに、日本企業が外貨建て資産を円に換金する動きが他通貨市場にも波及し、グローバル市場全体の流動性に影響を与えることがあります。
これに伴い、地震が発生した際には為替リスクを意識し、地震後の通貨市場の動向を慎重に監視する必要があります。地震の影響が特定の通貨市場全体に連鎖する可能性があるため、グローバル投資家にとっても重要な課題となります。
5. 投資家が取るべき行動
地震がもたらす影響に対処するためには、分散投資が重要です。地震リスクを軽減するには、株式以外の資産クラスである債券、ゴールド、不動産などを含めたポートフォリオを構築することが有効です。短期的な混乱期には、安全資産である国債やゴールドが特に注目されます。また、通貨市場では円高が進行するため、為替リスクをヘッジする手段を検討することも必要です。
復興需要を見越した長期投資も有望です。建設資材関連のコモディティや不動産市場は、復興需要の高まりに伴い魅力的な投資先となります。さらに、耐震性の高い不動産や災害対応技術を持つ企業への投資は、長期的なリターンをもたらす可能性があります。また、特定の地域や国に依存しない分散投資を行うことで、大規模災害のリスクを軽減できます。
6. まとめ
地震が株以外の投資商品に与える影響は多岐にわたり、短期的な混乱と長期的な回復の両面を考慮することが必要です。南海トラフをはじめとした大地震はこれからもいつか起こるものと想定し、いざというときに備えることは非常に大事といえるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。これからも企業のビジネスについて、分かりやすく解説した記事を更新していきますので、本アカウントやXのフォロー、そして記事へのスキをよろしくお願いいたします!