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【ファブレス VS ファウンドリ】半導体製造のプロセス【半導体シリーズ②】

第2回: 前工程(設計・製造)と注目企業

半導体産業シリーズの第2回では、前工程と呼ばれる「設計」と「製造」のプロセスについて解説します。この工程は半導体の価値を決定づける最も重要なステップであり、業界をリードする企業の動向がここで生まれます。

前工程は、半導体がどのように機能し、どんな役割を果たすかを具体化するステップです。半導体は電気信号を制御・処理するデバイスであり、コンピュータやスマートフォン、自動車などの電子機器に欠かせない部品です。前工程は、その性能を決定づける工程で、主に以下のステップに分かれます。


前工程の主要なステップ

前工程のイメージ
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1. 設計(Design)

半導体の設計は、使用目的や性能要件に応じてチップの回路構造をデザインする工程です。この工程では、回路の基本構造(アーキテクチャ)の決定、トランジスタの配置や接続、そして各部品の相互作用の調整が含まれます。設計者は、電力消費、動作速度、製造可能性などの要件をバランスさせながら、最適なチップ構造を目指します。また、EDA(電子設計自動化)ツールを活用することで、膨大な回路設計を効率化し、設計の精度とスピードを向上させています。

2. リソグラフィー(露光)

出典:Semi journal

リソグラフィーは、フォトマスクを通して特殊な光をウェハーに当て、回路パターンを写し取る工程です。フォトマスクとは、設計データを基に作られる「光を通す部分」と「遮る部分」があるフィルムのようなものです。このフィルムを通じて、設計された回路を正確にウェハー(シリコン基板)上に転写します。

シリコン基板は、電気を流す性質と流れを制御する性質を兼ね備えた素材で、半導体の土台として使われます。フォトマスクを使う理由は、半導体の回路が極めて細かいため、手作業で描くことが不可能だからです。特にEUV(極端紫外線)リソグラフィーは、より微細な回路を形成するための先端技術として注目されています。この技術により、処理性能を向上させながら消費電力を削減することが可能です。

3. エッチングと成膜

エッチングでは、ウェハーに描かれたパターンに沿って不要な部分を化学薬品やプラズマを使って削り取ります。化学薬品を使用する湿式エッチングと、プラズマを使用する乾式エッチングの2種類があり、それぞれ用途によって使い分けられます。成膜工程では、回路を形成するための材料を原子レベルで均一に積み上げる技術が用いられます。これらの工程を繰り返すことで、複雑な多層構造の半導体が完成します。

4. ドーピング

ドーピングは、シリコン基板に特定の不純物を添加することで電気的特性を調整する工程です。このプロセスでは、主にイオン注入と呼ばれる技術が使用されます。具体的には、不純物となるイオンを高速で基板に打ち込み、電気的な特性を局所的に変化させます。これにより、トランジスタや回路のスイッチング性能が向上し、効率的な動作が可能となります。


半導体設計の注目企業

設計は半導体の性能や用途を決定づける重要なプロセスです。主にファブレス(Fabless)と呼ばれる企業がこの分野を担い、世界的に注目されています。ファブレス企業は自社で製造を行わず、設計に特化しているのが特徴です。

IDMについては設計から開発まで自社で行うイメージ
出典:Semi journal

ファブレス企業の概要

ファブレス企業は、最先端の技術と独自の設計力を駆使して、半導体の価値を生み出す核となる存在です。彼らは自社で製造を行わず、専業の製造受託企業(ファウンドリ)に生産を依頼することで、設計工程に特化できる仕組みを構築しています。この分業モデルにより、ファブレス企業は設備投資の負担を軽減し、設計技術の向上に集中できます。また、AIや5G、自動車向けといった成長分野への迅速な対応が可能で、競争優位性を高めています。

ファブレス企業の主な役割は、新しい用途に適応する革新的な半導体を設計し、市場のニーズに応えることです。例えば、AI向けGPUやスマートフォン向けSoC(システムオンチップ)などがその代表例です。設計プロセスでは、EDAツールを駆使して回路の最適化やシミュレーションを行い、製造プロセスとの整合性を確保しています。

主要なファブレス企業

  • NVIDIA(米国): GPU設計のリーダーとして、AIやデータセンター向け半導体で圧倒的なシェアを誇ります。特に生成AIの需要が急増している現在、NVIDIAの高性能GPUは欠かせない存在です。

  • AMD(米国): CPUとGPUの両方で競争力を持ち、特にゲーミングやデータセンター分野で注目されています。直近ではエネルギー効率の高いプロセッサ設計で市場を拡大しています。

  • Qualcomm(米国): スマートフォン向けSoC(システムオンチップ)で市場をリードし、5G通信技術においても強みを持ちます。また、IoTや車載向けの展開も進行中です。

  • MediaTek(台湾): コストパフォーマンスに優れたスマートフォン向けチップで台頭。特に中価格帯スマートフォン市場で競争力を発揮しています。


半導体製造の注目企業

製造は、設計図を基に実際に半導体を作り出すプロセスです。特にファウンドリ(Foundry)と呼ばれる製造専業企業がこの分野で重要な役割を果たしています。

ファウンドリ企業の概要

ファウンドリ企業は、設計された半導体を物理的に形にするプロセスを担う専門企業です。彼らは高度な製造設備とプロセス技術を駆使して、大量生産を可能にします。このプロセスにはクリーンルームや最新の製造装置が必要で、極めて高額な設備投資が求められるため、新規参入が難しい分野です。

ファウンドリは、特に微細化技術で業界を牽引しています。最先端の5nmプロセスや3nmプロセス(要は半導体の小型化技術のこと)は、処理能力を向上させつつ消費電力を削減する技術として注目されています。また、AIや5G、自動車市場の成長により、ファウンドリの役割はますます重要性を増しています。

主要なファウンドリ企業

  • TSMC(台湾): 世界最大のファウンドリ企業。特に5nmや3nmプロセスといった最先端技術で業界をリードしています。TSMCはAIや高性能コンピューティング(HPC)向けのチップ製造に特に強みを持ちます。

  • Samsung Foundry(韓国): メモリ製造に加えて、ロジック半導体の製造でも存在感を示しています。先端プロセスとコスト効率の両面で競争力を持ち、EV(電気自動車)向け市場でも進出を強化しています。

  • GlobalFoundries(米国): 中堅ファウンドリとして、特殊プロセスに強みを持ちます。特に低消費電力チップやIoTデバイス向けに特化した製品で競争力があります。

  • UMC(台湾): コスト効率の良い成熟プロセスで競争力を持っています。UMCは特に家電製品や一般消費者向けデバイスで需要の高い半導体を手掛けています。


この分野で活躍する日本企業

前工程の分野では、残念ながら日本企業の存在感はほとんどありません。ファブレスやファウンドリとして直接的に市場をリードする企業は少なく、半導体設計や最先端の製造技術における競争力が他国に劣っているのが現状です。

ただし、間接的に前工程を支える形で活躍している企業はあります。たとえば、信越化学工業SUMCOといったシリコンウェハーの供給において世界的なシェアを持つ企業や、東京エレクトロン製造装置を提供することで、前工程全体を下支えしています。これらの企業の技術や製品は、TSMCやSamsungといった主要なファウンドリ企業の製造プロセスに欠かせないものとなっています。

これらの日本企業については、第3回以降の記事で詳しく触れていく予定ですのでお楽しみに!


前工程の技術革新と課題

技術革新

前工程では、常に新しい技術が生まれています。特に注目されるのが、トランジスタの微細化技術です。現在主流の5nmプロセスや、次世代の3nmプロセスは、処理能力を高めつつ消費電力を削減する技術として重要視されています。

また、EUV(極端紫外線)リソグラフィー技術の導入が、微細化を支える柱となっています。この技術は、従来の光源では不可能だった極めて細かいパターンを描くことを可能にし、処理性能を向上させつつ省電力化を実現します。一方で、EUV装置は製造コストが非常に高く、運用にも高度な技術が必要なため、導入には多大な投資が必要です。ASML(オランダ)がこの分野で世界をリードしています。

課題

技術革新の一方で、課題も存在します。例えば、微細化が進むほど製造コストが増大するため、特定の製品以外では採算が合わないことがあります。また、半導体製造には大量の水やエネルギーが必要であり、環境負荷の問題も無視できません。

さらに、地政学的なリスクも前工程に影響を及ぼします。米中間の技術覇権争い(第6回で触れる予定です)や、台湾周辺の地政学的緊張がサプライチェーンの安定性に影響を与えています。


まとめと次回予告

今回の記事では、前工程における設計と製造のプロセス、そしてそれを支える主要な企業について解説しました。この工程は、半導体産業の競争力を形作る中核であり、各企業の技術革新が市場の進化を牽引しています。

次回の第3回では、「後工程(テスト・パッケージング)と注目企業」について解説します。後工程は、完成した半導体製品の品質を保証し、市場に送り出すための重要なプロセスです。次回もぜひお楽しみに!

最後までお読みいただきありがとうございました。これからも企業のビジネスについて、分かりやすく解説した記事を更新していきますので、本アカウントやXのフォロー、そして記事へのスキをよろしくお願いいたします!

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