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【これだけは押さえたい】シリーズ全体と投資戦略のまとめ【半導体シリーズ⑧(終)】

これまでの7回にわたるシリーズでは、半導体業界の基礎知識から地政学的リスク、そして次世代技術に至るまで、多岐にわたるテーマを深掘りしてきました。シリーズ最終回となる本記事では、これまでの内容と、半導体業界に対する投資戦略についてまとめます。
1~7回をまだ読んでおらず、読むのがめんどくさいという方はぶっちゃけ本記事の内容だけでも押さえておけばひとまず問題ないと思います

半導体は、現代のテクノロジーを支える基盤として、AI、5G、電動車(EV)、量子コンピューティングなど、未来を形作る分野の成長を支えています。このような背景から、個人投資家にとっても、半導体関連株は魅力的な投資対象となっています。では、どのような視点でこの業界にアプローチすればよいのかを考えていきましょう。



これまでの総括: 半導体業界の主要トレンド

1 地政学の影響とサプライチェーンの分断リスク

半導体産業は、グローバルなサプライチェーンによって支えられています。しかし、地政学的な緊張やパンデミックといった外部要因により、サプライチェーンの脆弱性が顕在化しています。特に台湾のTSMCや韓国のSamsungが担う製造分野への依存は、世界的なリスク要因となっています。

このような状況に対し、アメリカや日本、欧州連合が主導する地域分散化の動きが進行しています。国内製造能力を強化する政策や、グローバル協力を通じた供給網の安定化が、その具体例です。また、Gartnerの最新予測によると、2025年には世界半導体売上高が前年比13.8%増の7167億米ドルに達する見込みであり、こうした成長を支える供給網の強化が急務となっています。

2 次世代技術による需要拡大

AI、量子コンピューティング、6Gといった次世代技術は、半導体の需要を飛躍的に拡大させる原動力となっています。これらの技術は、データ処理能力やエネルギー効率の向上を求めており、最先端の半導体技術が欠かせません。

例えば、AI向けのGPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)や量子コンピューティングに必要な特殊プロセッサーは、世界中の企業が開発を競っています。バンク・オブ・アメリカのアナリストは、2025年上半期までAI関連半導体株が上昇基調を維持すると予測しており、これに伴い関連分野への投資が急速に拡大しています。

3 各国の産業政策と投資支援

アメリカのCHIPS法を筆頭に、日本や欧州でも産業育成政策が進行中です。これらの政策は、補助金や税制優遇を通じて国内の製造能力を強化することを目的としています。

日本では、TSMCの熊本工場や国内企業Rapidusの新プロジェクトがその代表例です。これらの動きは、地域経済を活性化させるだけでなく、半導体供給網全体の安定性向上にも寄与しています。また、2025年には世界の半導体設備投資が20兆円を超えると予想されており、日本企業もこの成長分野で重要な役割を果たすと考えられます。


投資戦略の基本方針

1 地域分散投資

地政学的リスクを考慮すると、特定の地域や企業に依存する投資はリスクが高まります。そのため、地域分散投資が重要です。具体例としては、アメリカ、日本、欧州、アジアの主要企業にバランスよく投資することで、地政学リスクを分散させることができます。

2 成長分野への集中

半導体業界には、装置、材料、ファウンドリ(製造受託)、後工程(テスト・パッケージング)といった多様な分野があります。それぞれが異なる成長ドライバーを持つため、注目する分野を選定することが重要です。

例えば、装置分野では日本の東京エレクトロンやアメリカのApplied Materialsが高い競争力を持っています。一方、材料分野では信越化学SUMCO、さらには高純度フォトレジストを提供するJSR東京応化工業などが注目されています。これらの企業は、それぞれ特定のニッチ市場で圧倒的な競争力を誇ります。

3 リスク管理のポイント

半導体業界は急成長が期待される一方で、地政学リスクや技術革新による競争の激化、需要の変動性など、不確実性も伴います。このため、リスク管理を徹底することが重要です。

例えば、技術の急速な進歩に対応する企業を見極めることや、供給網の変化に適応できる企業に注目することが鍵となります。また、ポートフォリオの多様化や、関連する市場データやニュースの定期的なチェックも重要な戦略となるでしょう。

日本の半導体業界のポジションと魅力

1 日本企業の強み

日本の半導体業界は、特定分野で高い競争力を持つ企業が集まっており、装置や材料分野での技術的優位性が際立っています。

  • 装置分野: 東京エレクトロン(TEL)は、リソグラフィー装置やエッチング装置で世界的なシェアを持つリーダー企業です。同社は2023年時点で約20%の市場シェアを占めており、次世代半導体製造技術に不可欠な装置の供給を担っています。

  • 材料分野: 信越化学やSUMCOは、半導体製造に欠かせないシリコンウェハーの分野で圧倒的なシェアを誇っています。特に信越化学は、品質の高さと安定供給で評価されています。

  • 化学素材: 東京応化工業やJSRは、フォトレジストや高純度の化学材料を供給しており、次世代技術の発展に寄与しています。

2 グローバルサプライチェーンでの役割

日本企業は、半導体製造プロセスのあらゆる段階で欠かせない役割を果たしています。特に、装置や材料分野では、他国が追随できないほどの技術力を有しており、グローバルなサプライチェーンにおいて重要なポジションを占めています。

さらに、日本政府の補助金政策や研究開発支援が進む中で、国内企業が新たな成長機会を模索しています。TSMCの熊本工場は2024年末の稼働を予定しており、最先端の半導体技術に対応する生産能力を持つ予定です。また、Rapidusは量子技術対応の半導体製造に注力しており、日本の製造力を新たなレベルに引き上げようとしています。

3 国内需要の見通し

AIやIoT、自動車向け半導体の需要が増加している中で、日本国内の需要も拡大しています。特に、電動車(EV)や再生可能エネルギー関連分野での半導体使用量の増加が注目されています。このようなトレンドは、日本企業にとっても新たな成長機会を提供するでしょう。


投資戦略

1 短期・長期戦略

  • 短期戦略: 市場のトレンドを見極め、業績が好調な企業や新技術を発表した企業に注目する方法です。例えば、AIブームを背景にしたNVIDIA関連の需要に対応する東京エレクトロンへの投資が考えられます。

  • 長期戦略: 日本の装置メーカーや材料メーカーは、地政学的リスクに影響されにくい安定した事業基盤を持つため、長期的なポートフォリオに適しています。例えば、信越化学やSUMCOのような企業は、長期的な需要増加に対応できるポテンシャルがあります。

2 配当利回りを重視した銘柄選び

例えば東京エレクトロンは2023年度時点で3.5%の配当利回りを誇り、アドバンテストも3%以上の利回りを提供しています。これらの企業は、収益性が高く、株主還元にも積極的であるため、中長期的な投資先として魅力的です。

3 次世代技術関連株へは投資タイミングが肝要

次世代技術に関連する半導体株は、高い成長性を秘めていますが、投資タイミングが重要です。AIや量子コンピューティング、6G関連の技術はまだ初期段階にあるため、技術開発が進む中で適切なタイミングを見極める必要があります。投資判断には、業界ニュースや企業の技術進捗報告を活用することが有効です。

例えば、量子コンピューティング分野で先行している企業や、6G技術の研究に積極的な日本企業に注目することで、将来的なリターンを狙うことが可能です。


まとめ

本シリーズを通じて、半導体業界の複雑な構造や未来への可能性を探ってきました。このシリーズを読んで、少しでも半導体業界に関する理解・興味が深まったり、投資に役立つ知見が得られたと思っていただけたらとても幸いです。

シリーズをご覧いただき、ありがとうございました!


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