がん告知
第1章 見えない影との出会い
予約日に、私は少し緊張しながら病院へ向かいました。診察室で待っていたのは、人間ドックでお世話になった内科医の先生です。いつも穏やかな笑顔の先生が、この日ばかりは少し硬い表情をしていました。
「エコー検査の結果ですが、肝臓付近に白い影が映っています」と、先生は丁寧に説明を始めました。その影が何を意味するのか、今の段階では良性なのか悪性なのか判断がつかないとのこと。「良性なら特に心配はいりませんが、悪性の場合は場所的に少し慎重に見ていく必要があります」と言われ、思わず息を飲みました。
「CT検査で詳しく調べてみましょう」と言われ、すぐに予約を済ませて帰宅しました。診察室を出た後も、先生の「ちょっと心配ですね」という言葉が頭の中をぐるぐると回ります。ただ、その不安をそのまま家に持ち帰るわけにはいきませんでした。妻には何も伝えず、「検査結果を聞いてから話せばいい」と自分に言い聞かせました。
CT検査を受け、結果が出る日を待っていると、その前日に病院から電話がかかってきました。「検査結果をお伝えしますので、奥様と一緒にご来院ください」と告げられた瞬間、頭の中に警鐘が鳴り響きました。「これは良くない結果だ」と、誰しもがそう思うような電話でした。
翌日、妻と一緒に病院へ向かいました。道中、妻には「何か見つかっても今は大丈夫だから」と言葉を濁しましたが、その言葉がどれだけ頼りなく響いたか、自分でもわかっていました。診察室に入ると、先生がCT画像をモニターに映し出し、ゆっくりと切り出しました。
「結論から申し上げますと、悪性の腫瘍です。病名は肝内胆管癌といいます。」
その瞬間、世界が少し静まり返ったように感じました。先生の声は聞こえているのに、その言葉が体の中に染み込んでいくまでに少し時間がかかった気がします。
続く説明を聞きながら、心の中では不安や疑問が渦巻きましたが、それでも妙に冷静な自分がいることにも気づきました。きっと、妻の前で取り乱したくないという思いが支えになっていたのでしょう。診察室を出た後、待合室の椅子に座り込んだ妻がぽつりと「どうする?」と聞いてきたとき、初めて自分が何も答えを持っていないことに気づきました。
それでも、この日を境に「戦う覚悟」を少しずつ固めていくことになるのです。