【小説】ラムネ
テトラポット堤防の上。小麦色の顔、君の薄い唇に触れるプラスチック。首には汗が滲んでいる、喉仏は上下する。襟の隙間から覗く鎖骨は、白い。波が激しく打ち付けた。全部飲み切った君は、ビー玉を取り出そうと、飲み口に左手を当てて思い切り腕を上下運動させている。
「この瓶、ビー玉取れないようになってるぽいよ」
「取れるかもしれないだろ」
「子どもっぽいなぁ。取れないよ、諦めな」
「いつだって少年の心を胸に、俺の座右の銘だからな。諦めずに振り続けるんだ!」
これは長くなると思い、僕は右手のラムネ瓶を置いた。
隣でガラス同士がぶつかる音を聞かされ続ける身にもなってくれ、君は幼稚なことに必死だ。不思議と僕はその顔を、「美しい」と思ってしまった。
君はもう飽きたのか、ラムネ瓶を置いた。2本の影が並んでいる。波が打ち付ける、カモメは飛んでいない。
「彼女、できたんだ。」
世界が止まった。
「良かったな。」
潮騒は同じリズムを刻む。君は恥ずかしいのを誤魔化すように、笑う。君にその顔をさせているのは、僕じゃない。波は激しさを増しているようだった。
「お前には最初に言わなきゃなって思ってさ。相談にも乗ってもらってたし。なんだって親友だろ?」
自慢げな君は、僕の肩を思い切り組んだ。触れている部分だけが熱い。悪意のない「親友」という言葉に僕は胸が締めつけられた。
「そうだな。親友だな」
現実は残酷だ、僕らは親友だ。
「また明日。じゃあ!」
大きく手を振る君は、いつもとどこか違った。この後、彼女との約束があるのだろうか。ずっと好きだって言っていたからな。2人はどこまでいったんだろう。自分の底にあった知らない黒い塊が、液体となり、どくどくと溢れ出てきているような気がした。
きらきらと光る水面とどこまでも続く水平線。堤防の上に1本だけ取り残されたラムネ瓶には、ビー玉だけが囚われている。振っても取れるわけないだろう、夕空に瓶をそして思い切り叩き割った。
腕が痺れる。「コロン」堤防のコンクリートに転がるビー玉。傷ついていた。夕空に手を伸ばす。ビー玉は夕陽と同じくらいの大きさに見えた。太陽と海が逆さまの世界。オレンジが沁みる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?