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今更「かわいいだけじゃだめですか?」を語っちゃだめですか?

「あと10分で家を出なくちゃ遅刻しそうです」は言うほど大ピンチなのだろうか?

そもそも10分前に起きられている時点でっていう。地下アイドルオタクのかべのおくです。


あまりにもバズりすぎてしまって、礼賛されてしまっている感がある「かわいいだけじゃだめですか?」。ここらで冷静になって、ひとりのアイドルオタクとしてこの曲を分析しておきたいと思い立ちました。


「かわいいだけじゃだめですか?」とは

まずは楽曲の基本情報と、楽曲に対しての考察を行います。

基本情報

KAWAII LAB.所属のグループCUTIE STREETのデビューシングルの表題曲、初MV楽曲。

主な数値情報は以下の通りとなっています。

2024年8月のデビューライブでの発表以来、アイドルの枠を越えて話題になりまくった楽曲であり、異次元のバズりを見せていることがよく分かります。


楽曲の考察

それではこの曲について、タイトル・歌詞・曲構成の面から真面目に考察しようと思います。


まずもって、タイトルからして勝ち確です。「だめですか?」なんて言われたら、何かしらの答えを返したくなってしまいます。そして本当にかわいいだけでよいのかどうか、確かめるために曲を聞こうという心理状態にされてしまうのです。これはCUTIE STREETの"KAWAII MAKER"というコンセプトを全面に押し出した楽曲とも考えられます。


また、歌詞は自己肯定感の上がるかわいいソングという最近のトレンドを上手く捉えつつ、これまでKAWAII LAB.が作り上げてきた世界観を引き継いだものとなっているように思われます。

FRUITS ZIPPERに提供されたヤマモトショウ氏の楽曲を振り返ってみましょう。2022年に発表されたFRUITS ZIPPERの「わたしの一番かわいいところ」には、「誰もが持つ"かわいい"を肯定しよう」という思想が見られます。

わたしの一番、かわいいところに
気付いてる
そんな君が一番すごいすごいよすごすぎる!
そして君が知ってるわたしが一番かわいいの、
わたしもそれに気付いた!

Uta-Netより

そして2024年の「NEW KAWAII」では、さらに進んで「"かわいい"を共有・肯定しあおう」というメッセージが見られます。

大好きな人が、にゅーかわいかった
それがほんの少しでも、わたしのせいならいいな
おしもおされぬ、愛が見つかる
嬉しくなりすぎる新しさです
(中略)
大事なことを言い合いましょう
さあかわいいも言い合いましょう?

Uta-Netより

そして「かわいいだけじゃだめですか?」は、これまでの「かわいいことの肯定」「かわいいの共有」という流れを汲みつつも、さらに過激な主張が見られます。

やるせないけど私の可愛いさを
見つけてくれる人がいることを願って
しっぽふりふりフルスイングで「カキーン!」
短所も使え使え!ドジなとこもおバカなとこも
「かわいいだけじゃだめですか?」
(中略)
全銀河中キュン4させちゃう
地球の形変わっちゃうくらい
ラブでラブして!
愛で愛して!
もっともっとキュンな世界を作ろう!

Uta-Netより

長女のFRUITS ZIPPERは、「みんなのかわいいを見つけて、認めようね」という、至って大人な感じ。対して四女のCUTIE STREETは、他人がかわいいかどうかは差し置いて、「私の可愛さで世界征服!」という、原宿系の原点に立ち返ったかのような勢いを感じさせられます。

K-POPアイドルは「ガールクラッシュ」によって女性のカッコよさをアピールしたのと同じように、KAWAII LAB.は「多様なかわいいの肯定と発信」によって、原宿から世界に羽ばたこうとしているのです。


曲構成としては、メンバーごとにセリフや見せ場があってショート動画にしやすいことが特徴に挙げられます。

そもそもKAWAII LAB.楽曲は、セリフが大得意です。たとえば松本かれんさんの「ねえ?ねえ?ねえ?」や櫻井優衣さんの「なになに?」は完全に代名詞となりました。

同じように「かわだめ」では、サビ前のセリフが大きな見せ場となっています。しかもポイントは、7(かわいいだけじゃ)・5(だめですか?)調で他の言葉が入れやすいことです。この利点を、運営・メンバーとも積極的に活用しています。

@cutie_street

はぁ。。イタズラされたいです。 かわいいだけじゃだめですか? #CUTIESTREET #きゅーすと #KAWAII #アイドル #fyp

♬ かわいいだけじゃだめですか? - 1サビ - CUTIE STREET
@cutie_street

とにかく提供したくない梅田さん かわいいだけじゃだめですか? #CUTIESTREET #きゅーすと #アイドル #KAWAII #fyp

♬ かわいいだけじゃだめですか? - 1サビ - CUTIE STREET

見ている側からすれば、「今日は何をやってくれるんだろう?」というワクワク感もありますし、セリフだけならスマホ撮影でも切り取りやすいため、UGCを産みやすいと考えられます。


まとめると、「かわいいだけじゃだめですか?」は、KAWAII LAB.の研究の成果が詰まった、売れるべくして売れた楽曲といえるでしょう。

「かわだめ」が地下アイドルオタクには受け入れられない理由

そんな2024年ナンバー1バズり曲である「かわいいだけじゃだめですか?」。じゃあ、地下アイドルオタクから大手を振って迎えられているか?と言えばそんなことはないように見られます。これはどうしてなのでしょうか?


地下アイドルオタクは天邪鬼だから

そもそも、普通に生きてて週に何回もライブハウスに行くことなんてありますか?地下アイドルオタクは誰もがそういう「普通の人とは違った趣味」を持っていることに、密かな誇りを持っているんじゃないでしょうか?仮にそれが表では「こんな趣味を持ってて恥ずかしい、人に紹介できない」とか言ってたとしてもです。

そんな人に「だめですか?」と聞いたところで、脊髄反射で「ダメに決まってんだろ!!」と言われるに決まってるわけです。


一方で、地下アイドルオタクはチョロくもあります。だから、「かわだめ」を忌み嫌っているオタクも実は食わず嫌いしているだけで、少し良さに気づけばコロッといく可能性は秘めているでしょう。

しかし未だに、カワラボきっかけで現場にやってきたオタクと在来のオタクには、少し温度差を感じざるを得ません。

地下アイドル楽曲のトレンドとは外れているから

地下アイドル楽曲のトレンドはあいも変わらず「沸ける」「エモい」「キュン」の三拍子です。そういった意味で「かわだめ」は、そもそも地下アイドルオタクは好きになれない曲な気がします。


「沸ける」曲の例として、Merry BAD TUNE.の「SPNV.」を見てみましょう。

この曲の何がいいかと言えば、オタクが遊べる適度な余白があることです。前も後ろも、何をしたっていい。そんな絶妙なバランスを保っています。


「エモい」曲の代表例は、タイトル未定の「鼓動」ではないでしょうか。

特筆すべきは圧倒的な物語性です。 グループの歩みやメンバーのストーリーと歌詞がリンクしており、その裏の物語を聴衆が補完しながら想像できる楽曲は共感を呼びやすく、一定の評価を受ける傾向にあるように感じられます。


「キュン」な曲の典型例として、ここでは真っ白なキャンバスの「キャンディタフト」を挙げておきます。

地下アイドルといえば、アイドルとオタクの距離の近さが魅力です。擬似的でも恋愛感情を抱かせてくれる楽曲は、ガチ恋を加速させるために無くてはならない要素でしょう。


これら3つの要素に加えて、地下アイドル楽曲には一貫して「聞き手への歩み寄り」が必要とされます。ステージとフロアが一体となってライブを作り上げる必要があるためです。あとそもそも、地下アイドルオタクは自己肯定感が低めな人が多いので、「あなたのこと見てるよ」というポーズを見せるとコロッと行くので効果的です。対して「かわだめ」はベクトルは自分に向いており、フロアへの譲歩は見られません。

そんなわけで、地下アイドルオタクからすれば「かわいいだけじゃだめですか?」は、なんかハマらないし自己中でイラッとする曲という評価を受けかねない、ということになります。


「かわだめ」後のライブアイドル現場をどう生きる?

とはいえ、オタクの評価と関係なく市場は動きます。「かわいいだけじゃだめですか?」の大バズりは、ライブアイドル業界のゲームを大きく変えてしまったと言わざるを得ません。KAWAII LAB.の勝ちパターンを完全に確立させてしまったからです。


2022年、FRUITS ZIPPERが「わたしの一番かわいいところ」がTiktokで凄まじいバズを見せてからというもの、各アイドル陣営も同じやり方でマーケティングを試みましたが、結局上回ることはありませんでした(僕の認識では)。

ところがKAWAII LAB.は2年後、「わたかわ」と全く同じ方法で「かわだめ」をバズらせたのです。

  • 知名度のあるインフルエンサーを器用

  • 「かわいい」がテーマの自己肯定感が上がる楽曲

  • 公式アカウント・メンバーが積極的に発信してバズの元を作る

結果として、この方法に再現性があるとはいえども、KAWAII LAB.にしか真似が出来ないという絶望感を皆に植え付けることになりました。


現在、CUTIE STREETが出演するライブはチケットが軒並みソールド、他のオタクは推しグループのライブを見るどころか、ライブ会場に入ることすら叶いません。もはや完全にライブアイドル業界のゲームチェンジャーであり、その他の小魚は大きなクジラに付き従うしかないのです。

ただ、この状況を知ったうえで、「なんて生きづらい世の中なんだ!カワラボとカワラボオタクは現場来んな!!」とか言ってても始まりません、生き方を選択するのは僕たち自身なのですから。そこでここでは「流行りに乗る」「流行りに乗らない」の2通りでライブアイドル現場の生き抜き方を提示します。


①流行りに乗る

迎合するようですが、流行りに乗る意味でちょっと現場に行ってみるという選択は、当然ありえます。

CUTIE STREETのビジュアル、パフォーマンスは結構完成されてますし、ワンマンライブの規模もかなり大きく、出演する対バンのメンツも豪華です。最近のトレンドを知る意味で食わず嫌いは良くないですし、何よりきゅーすとに限らず、カワラボに推しがいると毎日が楽しくなります。

しかし、人気グループを応援するということにはそれ相応の苦しみが伴います。まず、チケット自体の倍率が高いために「思い立った時に行ってみる」ことはできないうえに、狙い定めてライブに行っても、場所が悪くて満足度が低いことがしばしばです。あと、特典券も品薄な上に話せる時間も極めて限られます。また、日常的に過剰すぎるコンテンツが供給され続けるため、それを捌き切る体力も求められます。マインドとしては地上・メディアアイドルのオタクであり、完全に別競技と言えるでしょう。


②流行りに乗らない

前述のようなことに耐えきれない、もしくは気に入らないのなら、ライブには無理して行かない、現場を選ぶという選択肢もありえます。

我々が「わたかわ」からの2年間で学んだことは、KAWAII LAB.の規格外の人気以外にもう一つあります。それは、「放っとけば上に行って、また元通りになる」ということです。FRUITS ZIPPERはレコ大新人最優秀賞を受賞してからというもの地上波に出まくり、完全に活躍のステージを移しました。きっと、CUTIE STREETもこのまま行けば同じ流れを辿ってゆき、地下アイドル現場には再び平穏が訪れるでしょう。それまでは、上手いことかわしながら嵐が過ぎ去るのを待てばよいだけです。


しかしどちらの選択肢を取るにせよ忘れてはいけないのは、自分たちオタクは皆そういう構造のビジネスにおける消費者である点では変わらないということです。いがみ合ったり、貶め合ったりしている場合ではありません。自分たちが推しを応援することの何が楽しいのか、それを自分なりに発信し、それをみんなが認め合う。それが「もっとキュンな世界を作ろう!」に繋がるのではないでしょうか?


おわりに

まとめます。

世界は手のひらの上。 

以上です。


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