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シナリオライターになるまであと3年と0カ月『2018年2月』【エッセイ】30歳中卒男が4年がかりでシナリオライターになるまで
2024年2月、私はシナリオライターとして新たな一歩を踏み出した。
いや、シナリオライター"志望者"として新たな一歩を踏み出したというべきか。
私がシナリオの書き方を習っていた学校、シナリオセンター大阪校。
その最初の過程である3カ月間の基礎科を終えたのだった。
修了の証としてB5サイズほどの証書をいただいた。
いくら民間の、カルチャースクール的な教室とはいえ、真面目に勉強をして得た証書である。
私にとっては中学校以来のものであった。
(運転免許所、エクセルの資格やプログラミングコースの修了証書はいただいたことあるけど)
どことなく安っぽいが、私にとっては立派な勲章であった。
卒業証書を包む筒のようなものは持ち合わせていなかったので、適当にノートに挟んで持って帰ることにする。
安っぽいB5サイズなのが幸いした。
基礎科の授業時間中に、ひっきりなしに手を動かして取ったノート。
「こんなにいるかよ」と思いつつも購入した、キャンパスノートA4サイズの100枚綴り。
見事に文字で埋まっている。
それどころか自らパソコンで目次や別冊などもうけたりもした。
進級先である研修科では基礎科のような座学は基本的には行われない。
各々が作品を持ち寄り発表していくスタイルだという。
つまり、もうこの学校では理論やテクニックを学ぶ機会はなくなったということだ。
シナリオを作成する際には、このノートに書き留めた技術を組み合わせつつ作成せねばならない。
もうこのノートの他に頼れるものはないのだと思うと、急にノートの重みがズドンと増した。
「修了したみなさまにお配りしております」
卒業証書とともに一冊の本が渡される。
本校を設立した新井一の『シナリオの基礎技術』という本である。
授業の内容もほぼこの本から引用されたものとのこと。
「帰りの電車で読んで、学びを深めるか」
新大阪から滋賀県の実家に向かうまでの一時間半、贈呈された本を開いて時間を潰そうとする。
電車の中は一つ手前の大阪駅からの乗客で大変混み合っていた。
なかなか座席を確保することができない。
小一時間ほど立ちっぱなしで耐える。
疲れ果てて本を開くことなんか忘れてしまっていた。
あの日から数年経過した今でも、まともに開かれずに家の本棚でホコリをかぶって眠っている。
※ ※ ※
翌週。
私はまたもや意気揚々と新大阪へと向かった。
シナリオセンターに到着すると、これまで利用していた大教室の手前で踵を返す。
今日から新しい教室である。
事務室の窓側をパーテーションで区切り、長机を数台固めて並べただけの簡素な空間。
壁に小さなホワイトボードがかかっている。
こじんまりとした簡素な空間だ。
だが私にとっては夢への第二歩を踏み出すためのプラットフォームである。
この場所でクラスメイトたちと切磋琢磨して、シナリオライターとしてデビューしたい。
(というよりは、一番乗りでデビューするのは俺だ!!)とばかりに意気揚々と乗り込む。
すでに十数名の生徒と一名の講師が集っていた。
講師はすでに還暦をすぎているであろうお爺さん。恰幅がよく、なかなか威厳がある。
昔のアニメに出てくるカミナリおじさんが白髪になって、やや品と丸みを帯びた印象だ。
(この人になめた口をきいたらシバかれそうだな)と思いつつ、初対面の挨拶を交わす。
クラスメイトにも目を向ける。
見た感じは老若男女が偏りなく在籍している印象だ。
まるで大阪の街中で歩いている人をランダムで呼び寄せたともいうべきか。
講師と同じ還暦すぎの男性もいるし、なんと中学生の女の子もいた。
(みんな、シナリオを書きたいという一心でここに集まっているんだなぁ)と思うと、少し込み上がるものがある。
高校を不本意な形で中退して以来、約十二年間。
同じことを学び、同じ場所に集う仲間なんて、私には存在しなかった。(ある例外を除いて)
街中ですれ違う、友達同士で談笑しながら帰宅する中高生たち。
視界に彼らの姿が触れるたびに、思わず胸が痛み、視線を逸らす。
侘しさと寂しさで胸が締めつけられることが日課となるような毎日を過ごしていた。
でも自分もようやく、将来のためにやりたいことができた。
そして学びを深め合える仲間を見つけることができた。
ただそれだけでも嬉しくて、温かい気分が胸の内から込み上がっていくのを感じた。
(よし。今日から俺はこの場所で頑張っていくぞ……!)
大志を抱きつつ、テーブルの末席に着席する。
まあその温かな感情には、諸々の理由ですぐに冷や水をぶっかけられることになるのだが。
◆最後までご覧いただきありがとうございました!
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本記事では研修科というクラスへと進級した時期を描いています。研修科ではあらかじめ用意をされたテーマに沿って自主的に課題を制作して発表するというスタイルが取られていました。しかしながら自主的に脚本を制作できずに長らく研修科に留まっている同窓生がいました。もしも読者であるあなたが彼らと同じように自主的に脚本を執筆したり完成させることができなくなくて悩んでいるのであれば、上記の記事が何かしらの助けになるかもしれません。
シナリオセンター基礎科への入学当初のお話です。初めての授業、初めての課題に戸惑いつつも、シナリオライターとして大きな一歩を踏み出す様子を描いています。