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鳥類学者無謀にも恐竜を語る 川上和人著 新潮文庫(2018年7月発行)

「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」で有名な著者ですが、最初は新書によくあるタイプの「売るための過激なタイトル」だと思って興味を持ちませんでしたが、ある日書店で今回紹介する本を見つけ、読んでみることにしました。

なんといっても恐竜ですし、文庫解説があの小林快次氏でしたから、読まないわけにいきませんね。

で、読み始めたら面白いのなんの。時間を忘れて読み続けてしまいました。ちなみに今回紹介するために三回目の再読をしたのですが、初回と同じぐらいの感動がありました(単に忘れっぽいだけか?)

この本のいいところを一言で表すなら、「無責任で緻密」だと思います。

鳥類と一部の恐竜が進化したものというのはほぼ定説となっているようですが、鳥類学者だけあって、鳥類の記述は緻密かつ丁寧です。さすが。

一方の恐竜は本人自ら門外漢と認めるだけあって、無責任かつ奔放な記述が目立ちます。もちろん基本的な事柄は抑えた上ですが。

この無責任というのは、恐竜の生態を原生鳥類の動きから「プロファイリング」するというもので、化石などの証拠は何一つ挙がっていない事柄も含まれる、という意味です。

ちょっと違うかもしれないけど、資料などをもとにしながら面白く書き上げられた時代小説のようなものかな。

このプロファイリングがめっぽう面白い。原生鳥類の確かな知識に基づきながら、話を進めて行くものだから、「これが真実なのでは」と思ってしまいます。

また文章中にちょいちょい挟んでくる小ネタが頭の緊張をほぐしてくれる。これがまた、面白い(やや中高年向けのネタが多いが)。

正しい恐竜学者だったらとても言えないような内容がたくさん含まれています。「恐竜といえばこれこれに決まっている」と考えている方にはお勧めしませんが、頭の体操などが好きな方で多少恐竜に詳しい方にはお勧めの一冊です。

せっかくですから各章の読みどころを少しだけ

はじめに:
 いきなり掲載されている鳥の骨格標本と著者の言い訳が読みどころです
序章「恐竜が世界に産声をあげる」:
 恐竜学の変遷がわかりやすく書かれています
第一章「恐竜はやがて鳥になった」:
 生物学につきものの「種」という考え方について、原生鳥類での意味と恐竜での意味の違いが読みどころです。
第二章「鳥は大空の覇者になった」:
 原生鳥類の特徴がわかりやすくまとめられていて、恐竜から進化してその特徴を手に入れるとしたら、どのような進化をとげていったのかを考察しています。
第三章「無謀にも鳥から恐竜を考える」:
 原生鳥類の行動から、恐竜もとったであろう行動や体色などを考察しています。実に無責任・・・いやいや奔放な想像力が発揮されていて、本書一番の読みどころです。
第四章「恐竜は無邪気に生態系を構築する」:
 恐竜が当時の生態系に及ぼしたであろう影響を考察するとともに、絶滅によってその影響が突如として消滅したことによる新たな影響を考察しています。それをわかりやすくするために、「ある日突然すべての鳥がいなくなったら・・・」と考察?が進んでいきます。楽しいです。

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