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知られざる日本の恐竜文化 金子隆一著 祥伝社新書(2007年8月発行)

古書店で懐かしい名前を見つけてつい購入してしまいました。本書は「恐竜」について書かれているものではなく「恐竜ブームの虚像と実像」について様々な観点から(といっても主にオタク文化から)書かれています。
概略は次の通り。

恐竜はいつの時代も子供たちに大人気で、毎年のように開催される恐竜展は何十万人、時には一〇〇万人もの観客を動員している。「恐竜ビジネスは、きっとビッグビジネスに違いない!」―しかし、それは傍らから見た虚像にすぎないようだ。恐竜をよく理解せずに恐竜展を主催する大手マスコミ、コスト偏重による粗製濫造本、模倣とパクリが横行する商業イラストレーション、瀕死の恐竜ジャーナリズム…。著者が自らの体験と取材を通して明らかにする恐竜業界は、一般のイメージと乖離した世界だった。恐竜は日本人に本当に理解されているのだろうか。日本の特異な恐竜文化のありようと問題点、恐竜学のあるべき姿を展望する。

表紙見返し

今(2023年)から考えると16年ほど前の執筆なので、現状とは違うんだろうな、と思いつつ読み始めましたが、なんだか昨日執筆されたような印象をうける内容でした。変わっていないんですね。
執筆時点では「福井県立恐竜博物館」もオープンしていましたので、恐竜の新発見は続いているものの、何かを覆すような大きなトピックスがなかったですもんね。

文中では著者が認める造形作家、イラストレーター、研究者がいろいろと紹介されています。すでに故人となられたかたもいらっしゃいますが、個人的には知らない名前が並んでいた(不勉強ですが)のでとても興味深かったです。

中には強烈に批判している方々(実名は伏せられていますが)もいます。好んで読んでいる「古生物学」「恐竜学」の先生方らしき名前はありませんでしたが、著者的にはどうお考えなんでしょう。もう伺えないのが残念ですが。

内容として一番面白かったのが206Pから述べられている「トンデモ恐竜翻訳本事件」でした。訳者や翻訳本のタイトルは伏せられていましたが、原著のタイトルが挙げられていたのでAmazonで検索してみたら、星がいっぱいついている評価の中で、数少ないながらこのトンデモ具合を具体的に紹介しているレビューがありました。機械翻訳の限界がよくわかるエピソードでした。
これを見るとネット書店のレビューは注意して読むべきだと、よくわかりますね。

本書後半は著者の主張する理論などが展開されています。個人的にはこれらの主張に全面的に賛同することはできないのですが、議論のきっかけという点では重要な項目だと感じました。

今となっては簡単に入手できないかもしれませんが、一読するに値する良書です。


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