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はじめてのゾンビ生活 不破有紀 著 雪下まゆ 絵 電撃文庫(2024年5月発行)

いわゆる「ラノベ」については、あらすじを読み、書評サイトや通販サイトのレビューを読み、自分の好みにあったら購入、という自分なりの作法があります。
もちろん、このジャンルでも新刊が出たら即買い!というお気に入りの作家さんはありますが、それはたった一人「野崎まど」さんだけです。

そんな中、初めて「ジャケ買い」をしてしまいました。なんとなく気になるタイトル、強烈なイラスト、そして帯にある年代史。
書店で初めて見かけたときに思わず「ほしいっ」となったのですが、自分なりの作法へのこだわりが邪魔をして、その時は買えませんでしたが、数か月してもう一度出会ったときに思わず手に取り、レジへ。

最近はなかなか本が読めなくて「積読」がたまる一方だったのですが、当時読んでいた本が終わった段階で早速開いてみました。

年代史型小説によくあるのですが、本書も西暦2151年から西暦3149年までに起こる短いエピソードの積み重ねで構成されています。
各エピソードは年代順に構成されているわけではなく、あるエピソードが語られた後、年代をさかのぼり、その遠因となった別のエピソードが語られる(あるいはその逆)という感じです。

数個のエピソードでは登場人物が共通していることもありますが、必ずしも固定された登場人物(あるいは系譜)はありません。

また「ゾンビ生活」とあるように、ゾンビになった人々の日常生活が主に描かれます。

全体の構成としては「地球篇」「月面基地篇」「火星篇」「新世界篇」と大きく区分されていて、先に記した日常生活は主に「地球篇」で描かれます。

本作ではゾンビは何らかの原因で通常の人々が「ゾンビ」へと突然変異する設定となっていて、「ゾンビ」になったとしても退治されるわけでも、社会から追い出されるわけでもありません。

とはいえ、やはりそれは「建前」であって、本音のところでは変異した人への「差別」、変異しなかった人への「侮蔑」がさりげなく描かれています。

旧来(つまり変異しなかった人)の方が社会の権力を握っているというのは実際の世界でもよくあることですが、それによって「ゾンビ」たちは地球から徐々に追い出され、「月面基地篇」以降につながります。

ちなみに本作の「ゾンビ」はきちんとした意識は備えているものの、その生態?的にはよくホラー映画で描かれるものと大差ありません。

個人的には「地球篇」はとても面白かったのですが、それ以降については「ゾンビ」である必要性をあまり感じませんでした。ゾンビをロボット(もしくはアンドロイド)に置き換えても成立するなぁ、と感じたからです。

とはいえ、全体としては大変面白く読めました。これがデビュー作」というから驚きです。これからも、構成のしっかりした作品を発表していただきたいと思っています。

赤い眼にやられました


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