幻想商店街 堀川アサコ著 講談社文庫(2021年5月発行)
幻想シリーズの第9弾です。今回はこの世とあの世の境目にある「世界のヘソ商店街」が舞台です。主役を務めるのは小学5年生の保科蛍。元気いっぱいの女の子です。
世界のヘソ商店街ではあの世の人たちが転生までのわずかな時間に商店街での散策などを楽しむことができます。連絡路となっているのは画廊に掲げられている1枚の絵。「一本道」と題されたこの絵画は初代閻魔庁長官によるもので、この絵を通って2つの世界を行き来しています。
そんな商店街に持ち上がっているのが市道拡幅のための立ち退き騒ぎ。この世とあの世の人々でにぎわう由緒正しいこの商店街を守るべく反対運動が盛り上がっている一方、閉店する商店も続々とでています。というのも立ち退いた後は近所のショッピングモールへの出店が約束されいるうえ、住居も役所が紹介してくれるというのです。
それなら時代の流れでしょうがないようなぁと思いながら読んでいたのですが、実はこの立ち退き騒動には長年蓄積された恨みが潜んでいたのでした。
それに加えて小学校近くに「交差点のアカリさん」という女性の幽霊が出るという噂がひろがり、それが商店街立ち退き騒動にも影響を与えていきます。
これに敢然と立ち向かうのが最初に紹介したホタルちゃん。今までの幻想シリーズに登場してきた人々の力を借りながら、奮闘するのですが・・・。
と、一気に読んでしまいました。わかりやすく、幽霊(つまりは死者ですよね)が登場するのに、さして重くない文章と巧みなストーリー展開に、先が気になって止まりませんでした。
他のシリーズ作品も同様なのですが、読後は常にハッピーエンド(死者は出ますが)。とても気持ちよく読了できます。
はて、どうしてだろうか、と今回初めて考えてみました。文体とか主役やそれをとりまく人々のキャラクターとかいろいろ理由があると思うのですが、一番強く感じたのは
「作品の前から世界があり、作品の後にも世界が続く」
ことにあるのではないかということです。
例えばシリーズ1作目の「幻想郵便局」ではあの世への入り口である登天郵便局にふとしたことからアルバイトに来たアズサの物語。彼女が来る前から郵便局は存在しているし、彼女が来た時に「大事件」は起こるものの、彼女が去った後にも郵便局は存在し続けている。
ああ、自分の知らないところで、世界は続くんだなぁ。
という印象を強く持ちました。その後他のシリーズにも時折この郵便局もしくはそこの局員が登場します。そうすると
ああ、世界は面的に広がっているんだなぁ。
と一本線だった時間軸が広がりを持ってとらえられるようになり、それがまた心地よく感じられます。SFでもミステリーでも同じ世界観で別シリーズが展開されるという例はよく見かけますが、本シリーズはそれが実にさりげなく提示されていて、わかる人にはわかりますが、わからなくても問題はないという絶妙さはたまりません。
おそらく、ですが各作品で世界観などをあまりくどくど説明していないのがいいんでしょうね。読んでいるうちになんとなく納得してしまう感じが。だからこそ「サクサク」読めてしまうのかもしれません。