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定吉七番の復活 東郷隆著 講談社文庫(2015年4月発行)

約20年前に角川文庫から5冊刊行された「定吉七番」シリーズが復活していました。

執筆が2010年らしく、作者の前口上に「時事ネタ若干古く」とありますが、この年になりますと2010年なんてつい二時間前ぐらいの感覚ですから、腹を抱えて笑って読みました。

それにしても、読んでいるこっちが心配になるぐらいのパロディ、いやそんな生易しいものではないですね。ここまでくると「愚弄」です。さすがは定吉七番。

20年前を思い返すと、こんな小説はたくさんありましたね。作者もやり放題。世間もそれを喜んで読む。パロディのネタにされた人は・・・。

このネタにされた方々の気持ちをおもんばかるようになって、現在ではこの手の小説がほぼなくなりました。せいぜいアニメ銀魂とアニメ妖怪ウオッチぐらいですかねぇ。寂しいですが、それが正しいことなんでしょうね。面白いからと言って、人を傷つけてはいけません。

さて、復活した定吉七番ですが、話は20年前から始まります。

任務を帯びてスイスに潜入した定吉は敵である秘密結社「NATTO」の重要メンバーである男を確保することを命じられます。

いいところまで追い詰めた定吉でしたが、ちょっとした油断から雪山のクレバスにおち、そのまま消息を絶ってしまいます。

そして20年後。

社会情勢もかわり、定吉が所属していた「大阪商工会議所秘密会所(OSK)」もNATTOとの協力体制も確立しつつあるころ、氷漬けになった定吉が発見され、蘇生処置が施されることになります。

蘇った定吉は変化に戸惑いながら、自由を求めて脱走するのですが、NATTOの復権を望む一部のメンバーによる策略を阻止すべく現場復帰を要請されることとなります。

ここから捧腹絶倒の活躍が始まるわけですが、それは読んでのお楽しみとして、元ネタがわかりやすいパロディの連続です。

特に国内政治、外交、ズイヨーあたりからお叱りを受けるのではないかと・・・それ以外にも、いわゆる「お約束」の連続。いまなら「ご都合主義」とかいって批判されそうな展開ですが、ここまで徹底的に書かれていくと「由緒正しい伝統的なお約束」と言ってもいいでしょう。

並みの知識量と文章力ではここまで「ばかばかしい」話は書けないですよ。お約束の連続でありながら、先が読めずにワクワクしながら読める。それでいて、「そうそう、それそれ」という笑いがやってくる。

ほんと、久しぶりに楽しい小説を読ませてもらいました。

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