文豪たちの怪しい宴 鯨統一郎著 創元推理文庫(2019年12月発行)
「邪馬台国はどこですか」でデビューし歴史謎解明ミステリーを次々に送り出している著者ですが、今回の邪馬台国シリーズは文学談義がメインになっています。
こころ、走れメロス、銀河鉄道の夜、藪の中といういわゆる名作の奥に潜んだ真実を明らかにする、という内容で、従来のシリーズと同様にスリーバレーという名のバーが舞台で、臨時に店を任されているミサキというバーテンダー、文学部教授の曽根原、そしてレギュラーの謎の男、宮田が登場します、というかこの三人しか登場しません。
ストーリーのパターンとしては
曽根原が店に来る→ミサキが文学のはなしをもちかける→半ば馬鹿にしつつ曽根原がそれにこたえる→意外とミサキが突っ込んだ話をし始める→盛り上がったところに宮田が来店して奇説を唱える
となっています。
奇説といってもそれなりに筋が通っていて、最終的に曽根原が言い負かされる形になるのですが…
歴史を題材にしていたときは「そういう考え方もあるなぁ」と面白く読めたのですが、今回は文学作品が題材なだけあって
「それは深読みしすぎというか、屁理屈だろう」
という論理もいくつか見受けられました。
確かに先にあげた作品の中には論理的・常識的に破たんしているものもあると前々から思ってはいましたが、歴史と違い一人の個人が紡ぎだす物語である以上、それはやむを得ないことだとも思います。
この邪馬台国シリーズは好きなのですが、ちょっとこれだけはいただけないかな。少なくとも題材にされている作品が好きな方は読まないほうがいいと思いますね。
ただ、銀河鉄道の夜については妙に納得してしまいました。あと、藪の中についての推理小説的な考え方については、この著者の本領発揮という点がいくつか見られました。
総合的には面白かったです。