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動画プロダクションマネージメント:スケジュール管理②

TV-CMの制作には、とにかく多数のスタッフや業者がからむ
それぞれにスケジュールがあるので、それらを擦り合わせるのも大変である
プロダクションマネージャーにとって、予算表と制作スケジュールを作り終えたら、仕事の半分以上は完了したようなもの
前稿では、実写作品の撮影の手前までのスケジュールについてご紹介したから、この稿では撮影から先のことをご紹介しよう
アニメーション作品やスタジオ撮影の実写作品は簡単なので、ここではオープンロケの場合をご紹介する


撮影前にしておくこと

ロケハンが終了すると、撮影の準備に入る
この段階でプロダクションマネージャーが頭を悩ますのが、ロケの進行である
具体的には、何をどの順番で撮っていくか決めること

撮影シーンにはそれぞれ条件がある
たとえば、夕日がからむシーンは当たり前だが夕方の時間帯でないと撮れない

工場などクライアントの施設に入っての撮影は、工場側の都合に合わせないといけない
素人は工場なんかいつ行っても生産しているようなイメージだが、そんなことはない
生産には生産の段取りがあって、条件が整わないとラインが動いていないこともある

ロケセットを借りるなら、先方の都合に合わせないといけない
たとえば、飲食店を借りて撮影をするとしたら、休業日を指定されるなどだ

これらをパズルのように組み合わせて、ロケの進行表を作っていく

当然だが、できるだけ短時間で撮り切ることが大切だ

スタッフ(日払いのスタッフ:助手など)もレンタル機材も日だてで計算する

つまりロケ日数を増やせば、予算がかかる

これらを考慮して、香盤表という進行表を作っていく

※香盤表というのは、歌舞伎が語源で役者の出番などを記した書類
私たちの会社では、撮影の進行表の意味で使っていた

香盤表づくりのテクニックについては、別稿を設けて触れていきたい

香盤表ができたら、宿泊込みのロケなら宿の手配などもしなければならない
また、移動の手段、列車や飛行機の予約、レンタカーの手配なども必要だ

撮影本番

撮影日になると、もうひたすら香盤表に従って撮影をこなしていくだけである

現場に立つと、プロダクションマネージャーはまさに「制作進行」としての仕事をこなす
つまり、次々と撮影を進行させていくための指揮をするわけだ

ロケ時のプロダクションマネージャーには、3つの役割がある

ひとつは、当然であるが今撮っている現場の進行
スタッフが仕事をこなしやすいように配慮をしなければならない
と同時に想定した時間内に撮影が終わるように気を配る

ディレクターやカメラマンは、狙った絵が撮れないとどうしても時間をかけたがる傾向にある
しかし、際限なく時間を与えてしまうと、その後の撮影に差し支える
次の現場に移動して、別のシーンをとらなければならなかったりするからだ

そこをうまく誘導して、香盤表通りの時間内に終わらせるのがプロダクションマネージャーの腕である

そしてもうひとつは、次に撮る現場の手配
ディレクターやカメラマンなどの撮影本隊が現場に入ってから準備をすると時間のロスが生じる
だから、移動したらできるだけ早く撮影を開始できるように、次の現場を整えておく

さいごは、今撮り終えたばかりの現場の片付けである
ロケの場合は、すべて現場は借り物だ、汚すわけにいかない
機材の忘れ物がないか
撮影のために移動させたものなどの復元が終わっているか
そんなことの確認もしなければならない

この3つの現場を差配しなければならないので、ひとりではとても身体が回らない
できれば助手のひとりふたりはほしいところだ

編集

撮影から戻ってきて、片付けも終わった頃には編集に入る
当時は、自社内に編集室はなく、すべて貸し編集室である

編集室は時間貸しなので、時間が延びれば予算を圧迫する
できるだけ早く編集が上がるように段取りすることもプロダクションマネージャーの仕事だった

編集に関しては、下記のマガジンで取り扱っておいた
昔の動画編集に興味のある方は、こちらを参照していただきたい

中間試写

ひととおり編集が終わったら、広告代理店やクライアントに向けて試写をする
今は、ノンリニア編集(デジタルデバイス上での動画編集)だから、すべて完成してから見せることが多くなった
これは、後からでも修正が容易だからだ

テープベースの編集だった頃は、録音が終わってから修正が入ると、もう一度録音スタジオで作業をせねばならないので、費用がかかる
そのため、編集が終わった段階で試写をして修正を行うことにしていた

修正編集作業

試写を行えば、手放しでOKが出るケースはほぼない
なにがしかの修正指示は入ってくるものだ
だから、もう一度編集室に入って修正作業を行う

オールOKが出たらその分予算が浮くので、プロダクションマネージャーはひそかに喜ぶ

MA(録音)

MAというのはマルチオーディオの略である
つまり、いろいろな音を重ねていく作業だ
どんな音を重ねていくのかというと、ナレーション、BGM(音楽)、SE(効果音)などである

録音スタジオには、音楽録音用のスタジオの他にMA専用のスタジオがある
MAスタジオにはナレーターが入る遮音されたブースと、コントロールルームがある

MAにはクライアントや広告代理店の担当者にも立ち会っていただくことが多かった
細かな発音のニュアンスなどは、実際に聞いてみないと伝わらないからだ

完成試写

これで動画作品の完成になるが、完成後にもう一度試写をすることがある
そのまま納品してよいかどうかの最終チェック

この完成試写には、クライアントの役員や社長クラスが来ることがある
本来はそのままOKが出てしかるべき試写なのだが、えらいさんが何か言い出すともう一度編集からやり直しになることも多い

だからプロダクションマネージャーとしては、修正が出ないように祈る気持ちだった

プロダクションマネージャーの失踪

こんな具合に動画作品が完成するまでには、さまざまな作業があり、それらを進行させるためのスケジュールがある
その進行を握っているのがプロダクションマネージャーなのだから、重要な役割なのがわかると思う

それを痛感した事件があった

私がプロダクションマネージャーからディレクターに職替えした後(といってもまだ社員ディレクターだった)ひとつの作品を一緒に作っていた若いプロダクションマネージャーが、突然会社に来なくなった

自宅や実家に連絡しても、連絡がつかない
つまり失踪してしまったのだ

悪いことに、作品の撮影にかかる前だったのだ
しかも、まだスタッフ打合せも済ませていなかった

プロデューサーもディレクターである私も、どの業者に何が予約してあるのか、知らなかった
プロダクションマネージャーだった彼だけが、知っている状態だった

恥をしのんで、付き合いのある業者すべてに「うちの◯◯が何か予約してませんか?」と電話で聞いてまわるしかなかったのだ

この時失踪したプロダクションマネージャーは戻って来ることはなく、そのまま解雇になった

私も、彼がどうなったのか、いまだに知らない

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