電車で出会ったのは
京都に向かう特急電車の二人掛けシートがきっかけだった。
二人掛けシートの窓側に、パンツスーツにポニーテール、リュックを前に抱えて寝ている女の子がいた。
私はその隣の通路側に座る。
車内は静かで、電車の走る音を聞きながら、流れる景色を見て過ごす。
アナウンスがあり、次の駅に停車。
大型ショッピングモールや映画館がある駅だなと窓の外を眺めていると、首を垂れて寝ていた隣りの女の子が、ガバッと顔を上げて駅を確認、大慌てで私の前すれすれを通り降りていった。
すごい勢い。
まぁ、間に合ってよかったね。セーフセーフ。よっこらしょ。
彼女の降りた、空いた窓際の席へ移ろうとお尻をバウンドさせたその瞬間、窓の手摺に彼女の携帯を発見!
すかさず手に取り振り向きながら立ち上がり、ホームに向かって右手を突き上げ呼びかける。
「携帯忘れてますよ!」
まだドアは閉まってない、背中は見えてる、気づけ!
ハッと彼女は振り向き、小走りで戻ってきた。
ペコリと頭を下げて携帯を受け取り去っていく。
よかった、間に合った、振り向いてくれた。
ほっとして、席に座り直す。
そこで違和感に気づいた。
なんかもうちょっとで言いかけて飲み込んだ言葉があるな。
その言葉がじわじわとよみがえってくる。
もう少し彼女が振り向くのが遅かったら。
そう、そのタイミングで、私、その背中に向かって、「携帯忘れてますよ」
「お嬢さん!」
て呼びかけてたわ。
お嬢さんて。
森のくまさんか。
私の中に熊住んでたんか。
熊がお嬢さん追いかけるとこやったわ。
もし男の子やったら。
「坊っちゃん!」
やな。
今度はどこぞの紳士出てきたで。
京都へ向かう特急電車の中。
思わぬ形で私の中にいる人と出会う。
熊と紳士。
君たち。
以後「お姉さん、お兄さん」
と呼びかけるように。
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