2020.05.13 しゅんPもがんばってる



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仕事が終わって残っているのは、40分先の終電だけだ。
田舎過ぎて30分に1本しか出ない電車、その前の電車は23時退勤なのに22時59分に出てしまう。山手線なら5分後に来るのに。都会の夜には執行猶予がついていることを、都会に住んでいた頃には忘れてしまっていた。

電車が来たら、飛び込むか、と思った。そしてそう思っている時だって、実際に飛び込みはしないことはわかっていた。昨日見回りに来てくれた車掌さんかっこよかったな。どちらまで行きますか、って聞いてくれた。わたしに興味を持ってくれた。家まで連れて帰ってほしかった。

特に辛いことはなかった。新しく始めた仕事は続けて行けそうだった。上司は2つ上の人で、ミスをしても怒らなかったし、話していても気が合った。今日は真空ジェシカの話をした。

いまのわたし、なんの意味があるのだろうと思ったら、顔を歪めて泣いてしまった。その顔を見られたくなくて、ホームの端で体育座りをした。スーツはちょうど暗闇に馴染んだ。馴染んでいることすら申し訳ないと思った。

わたしは、家族に充分愛され、周りにはたくさんの素敵な人たちがいて、たくさんの好きなものがあり、たくさんできることもある。じぶんの優しいところも、人に対して誠実なところも、愛情豊かなところも、全部だいすきだ。なにもなくとも、この先どうなろうとも、わたしがわたしである限り、一緒にいてくれると言ってくれる人がたくさんいる。それなのにどうして、たったひとり失っただけで、こんなにも悲しいのだろう。

この前の失恋の時はどうしたっけ。終わりなことしかしていなかった。かわいくなりたいと泣き、最終的に韓国まで行った。韓国の先生にわたしはどうしたらかわいくなれますか、と訊いたら、あなたはもう充分かわいいです、何もする必要がありません、と言われた。マニュアルだろうけど泣けた。整形大国は女の子のことをよくわかっていた。
その時は、振られた原因がかわいくないからだと思って努力しようとしていた。でももうそんなに本腰入れて外見を磨く気にはなれない。わたしの武器が外見ではないことを、わたしはもう知ってしまっている。

かわいい女にはもうなれない。いまより若くていちばん痩せてていちばんお洒落していたときでさえ恋人どころかあそべさえもしなかった。もうお手上げだ。死んでやり直すしかないところまできている。でも、死んだって虫けらにされるかもしれない。輪廻ガチャは奇跡の確率でしか納得したものは出てこない。だから、他で強みを作るしかない。そのことには結構前から気づいていた。

わたしは決して文章がうまい方ではない。でも、そのぎこちない形の文章をおもしろがってくれている人がたくさんいる。その文章を通した、ぐだぐだで考えすぎで泣き虫のわたしごと、愛してくれている人もたくさんいる。これはわたしの一番の誇りだ。それを本という形にして人と繋がることができるようになったのも、生きていく糧になっている。すごく有難い。外見をどうにかしたら愛されると思っていた頃よりも、ずっとずっと生きやすい。

ほんとうは背が低くて色が白く優しい顔の女の子に生まれたかった。どのコミュニティでもそういう子は男女関係なく愛され、輪の中心にいた。大概そのコミュニティで一番素敵な男の子と付き合っていた。わたしもそうなりたかった。ディズニー行って同じ耳つけた写真を「お揃いにしたよ」みたいな一文と共にアップして、人望の100いいねをもらいたかった。わかります?現実で人間関係がちゃんとできている人は人望で100いいねくらいいくのですよ。現実世界で人望がない我々、やってらんないですよね。
でも背が高くてがたいのいい怖い顔の女に生まれてしまった。どのコミュニティでも邪魔にならないように端っこにいた。背を低くしてください、だなんて、整形外科に行ってもドクターがヘイヘイして終わりだろう。ヘイヘイしてくれるなら行って金積もうかな。ヘイヘイしてくれるドクターに顔にメス入れてほしい。ヘイヘイメス入れてもらって訴えて裁判沙汰にしたい。契約書の医師名の欄にヘイヘイドクターって書いてあってほしい。裁判官が真面目な顔で「被告人、ヘイヘイドクターは」とか言ったら笑ってしまう。負けて裁判所の前で全力でヘイヘイさせられたい。そんでアイドルと結婚したい。

でもそんな不格好なわたしも、生きていかなきゃいけない。

おっぱいか?わたしに足りないのはおっぱいなのか?と思って豊胸もいろいろ調べてみた。でも、おっぱいがあるわたしをわたし自身が好きになれそうになかった。おっぱいが大きな子って見えない努力をすごくしているし、AAカップなら冬場ブラジャーをつけずとも外出ができる。やっぱりわたしはそっちの方がいいと思ってしまった。でもパイズリとかはすごくしてみたかった。谷間すらできないわたしには一生無理そうだった。誰にも訊かれていない情報をありがとう。

もうやめよう。外見にこだわるのは。あと需要のない性情報を暴露するのは。勝負できない土俵に上がっても砂だらけになるだけだ。わたしはもうヘイヘイ以外考えないようにしよう。

ヘイヘイドクターのヘイヘイってなんなんだろう。どういう気持ちのヘイヘイなんだろう。リズムに調子をつけるためだとは思うんだけど、それだったらヨーヨーでもハイハイでもいいはずだ。どうしてしゅんPはヘイヘイを選んだんだろう。


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Hey‼︎



こらっ、だったらウケるな。

そんなことを考えていたら涙も止み、終電も来たので乗ることにした。

今日はズーカラデルをずっと聞いていた。
『漂流劇団』を聴くと、こんな風に美しく生きられないものかな、と思ってまたぐずぐずしてしまった。
これから誰がわたしのことを笑わせてくれる?ただ抱き合って喜んでくれる?疲れたわたしと話してくれる?くだらない嘘をつき続けてくれる?
わたしは願うよ、一切の迷いもなく、「嫌いなあんたがいつか幸せになれますように」と。わたしがみんなの不幸を背負って空の高いところで自爆したら、世界がよくなるならそうしてもいい。アラバスタ編のペルか?と思った人は今度ワンピースの話しようね。

心より、誇らしく思います。

その次にチャットモンチーの『majority blues』が流れた。みんなと同じものがほしいけど、みんなと違うものもほしい。わたしのことだ。みんなの真似をして恋愛をしたがった。みんなが持っていない才能もほしかった。どっちにも振り切れていない、だってどちらもほしい。大衆にはどこにでもいる普通の女の子だと思われていたい。でも、近くにいる人たちには唯一無二だと思われていたい。
こんなこと、何歳になって言っているのだろう。打っていても恥ずかしくなる。

忘れられない人でありたくて、どうしてもそばに置いておきたいとみんなに思ってほしくて、そのために努力してきたつもりでいるけど、やっぱりまだ難しいみたい。すぐに忘れられて、飽きられて、面倒くさい、どうでもいいと思われてしまう。まだまだこれからだな、伸びしろがいっぱい、そう思って前を向いていきたい。

忘れられない人でいるためには、どうしたらいいんだろう。よく忘れられないために相手をたくさん傷つけて、その傷で相手に記憶を残そうとする人がいるけど、恥ずかしくないのかなと思う。自分の欲求のために人を傷つけること、そのあとそのまま生きていけること。
忘れられないって、刃で胸を刺すことなんだっけ。そんな、悲しいことだったっけ。

はじめて付き合った、2年付き合っていた人に別れ話をされた時、電話を切る前に「なにか最後に言いたいことある?」と言った。彼は少し黙った後「もし会って話してたらさ、レストランを予約して、そうして顔を見て話していたのかな」と言った。レストランを予約してもらえるくらいには愛されていたのだなと思って、その言葉を最後に選ぶ彼のセンスに、わたしはもうその人のことを好きではないけれど、その言葉がずっと忘れられない。そんなに素敵な言葉で胸を刺されて、すごくずるいと思った。だってそんな素敵な言葉、忘れられるわけがないから。言われてすぐはすごく嫌だった。もっと酷いことを言ってくれたら嫌いになれたのにと思った。でも今では、素敵な人を好きになれてよかったなといい思い出になっている。

記憶に残るっていうのは、そういうことだと思う。刃で胸を刺して相手に与えられる苦しみや傷は、結局は痛みでしかない。そんなもの次の幸せの波に飲まれたら底に沈んでしまう。
せっかく忘れられないなら、その人がその後どんなに幸せになったとしても、わたしのことを思い出して、そっちの道もあったかもしれない、と思ってしまうようなわたしでありたい。もしかしたらその刺すの方が、ずっと意地悪かもしれない。わたしはもしかしたらすごく意地の悪い女なのかもしれない。その捨てられない幸せだった将来の可能性を持たせ続けることは、きっと傷つくよりずっと長い間心に残り続けるものだと思うから。

素敵な言葉を心に刺して忘れられなくする、峰不二子みたいな女になりたい。結局、おっぱいは必要そうだ。

まだ生活はうまくいっていなくて、仕事中も1回くらいは泣いてしまったり、あとはご飯がうまくいっていない。ちょっと太ってたからちょうどいいとしたい。2キロくらいは減ったけど、だからといって二十顎は健在だから、二重顎ファンのみなさんには安心してその銃を仕舞っていただきたい。

過激だな。

なんとなく窓の外を見ながら、しゅんPはどんなに私生活で悲しいことがあっても、あの陽気な音楽と共にヘイヘイドクターを踊らなきゃいけない時があるのか、と思って、しゅんPってかっこいいな、しゅんP、と東京で明日の仕事のために就寝しているであろうしゅんPを想った。大事にしていたマグカップが割れても、ヘイヘイ。飼っていた犬が亡くなっても、ヘイヘイ。陽気な顔。機敏な動き。どんなことがあってもあのクオリティをキープしなきゃいけないなんて、そんなのあまりにも辛すぎる。見ていられない。もう誰かしゅんPにそんなことしなくてもいいんだと教えてやってくれ。

しゅんPもがんばってるなら、わたしもがんばらなきゃいけない。明日の仕事が終わればみんなに会える。これからも休みを調節してもらって、月に1回くらいは都会に出れるといいな。しゅんP、明日は何の仕事をしているのかな。アイドルの嫁とうまくいってるかな。しゅんP。

あ〜あ。さっきの電車で、飛び込んでおけばよかった。







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