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『キオス島の虐殺』ウジェーヌ・ドラクロワ 、1824年

1824年にドラクロアはこのキオス島の虐殺を発表します。この絵も実際にあった事件が背景にあります。
ジェリコーのメデューズ号の筏に感化されたものだと思われます。

ジェリコーのメデュース号の筏については下記に記事にしましたのでおさらいしてみてくださいね。

ギリシア独立戦争

では、まずこのキオス島の虐殺の歴史的背景から見ていきましょう。

1789年から1795年にかけてフランス革命が起こります。フランス革命によって登場したナポレオンに刺激されてギリシアでは独立運動が盛んになります。

1821年、ギリシアのオスマン帝国からの独立戦争が勃発します。1828年に戦争が終結するまでの間、ヨーロッパ諸国やアメリカ合衆国の至るところでギリシア独立支援委員会が市民によって結成され、ギリシア暫定政府に義捐金や武器、医薬品や食料などの物資を供給し、義勇兵からなる部隊を派遣するなど支援活動を展開しました。
この義勇兵に参加したのがイギリスの有名な詩人バイロンです。

ジョージ・ゴードン・バイロンの肖像画 1824年

イギリス貴族で裕福であったバイロンは1809年からヨーロッパ周遊に出かけます。その時にギリシャを訪れ、土地の澄んだ明るさと住民の朴訥さに深い感銘を受けました。
オスマン・トルコによって支配され、古代ギリシャの輝かしい栄光を失っているギリシアをテーマとした詩も残しています。そして、ギリシア独立運動に深くかかわっていきます。

1824年、バイロンは沼に囲まれたみすぼらしい町ミソロンギへ到着する。彼は二十一発の礼砲をもって正式に歓迎され、直ちに五千人の部下を持つ指揮官に任命された。しかしこの戦争好きの詩人は一度も部下を率いて戦場で活躍することはなかった。すぐに高熱を発して、死んでしまった……。

テランス・ディックス『とびきり陽気なヨーロッパ史』竹内理訳 ちくま文庫

今回のキオス島の虐殺は1822年4月より数ヶ月間、ギリシアのキオス島で、独立派らを鎮圧するため、トルコ軍兵士が一般住民を含めて虐殺した事件になります。
この時島民2万2000人が虐殺され、さらにその倍以上の男女が奴隷として連れ去られました。

キオス島の虐殺

さて、それでは今回のドラクロアの絵を見てみましょう。

『キオス島の虐殺』 ウジェーヌ・ドラクロワ
縦長の絵画も珍しいですよね。

フランスでもギリシア独立戦争は関心が高いものでありました。ドラクロアはこの絵をジェリコーのように取材をし、描いています。

ジェリコーの代表作であるメデューズ号の筏がフランスで評価を得られなかったため、ジェリコーはイギリスに絵を持ち込みます。そこでジェリコーはイギリスの風景画と出会います。

『乾草の車』ジョン・コンスタブル、1821年
この絵は1821年のロイヤル・アカデミーの展覧会に出品されました。そして1824年のサロン・ド・パリにも出品されセンセーショナルを巻き起こします。

この絵を見たジェリコーが絶賛したとドラクロアが日記に残しているくらいなので、もちろんドラクロアも影響を受けています。
その頃フランスには風景画というジャンルがなく、風景は歴史画などの背景としてしか意味をなさなかったからです。

少し背景部分を拡大してみました。
以前のドラクロアの絵よりは背景が念入りに描かれているのがわかります。

ドラクロアは6月にコンスタブルの絵を見て背景の色を塗り直したり明るくしたりしたそうです。サロンは8月に開催だったのでギリギリまで手直ししてたのですね。

この絵を発表したとき、多くの批評家が本作における絶望的な様子を悲しみ、2年前のサロンに出品した『ダンテの小舟』を絶賛したアントワーヌ=ジャン・グロでさえ「絵画の虐殺」と呼んだとされています。
ダンテの小舟は下記の記事で紹介してます。

最後にもう一度。
ちなみに1824年の1月にジェリコーが亡くなっています。そのショックもあったドラクロアがこの凄惨な絵に向かって必死に描いていたと思うと。。

この絵は遠近法を無視し、354 cm × 419 cm とほぼ原寸大で描いてあり今ではドラクロアの代表作の一つとして有名ですが、上記に書いた通りサロンでは異端的に取られました。

しかしながらこの絵は文字だけでギリシア独立戦争を見ていたヨーロッパ市民の目が絵画というイメージによってその悲惨さが注目され、フランスやイギリスがギリシア独立勢力の支援に動き、1830年2月にギリシアのトルコからの完全独立が合意、1832年6月にギリシアが完全独立国として承認されます。

世論を動かしたこの絵を皮切りにロマン主義が台頭してくるのを恐れた政府は同じ時に出品されたアングルのあの絵を絶賛するのです。
次回は、アングルに多大な影響を与えたあの画家をみていきたいと思います。


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