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電車の中で驚いて、考えたこと
用事を済ませた帰りの電車での、今日の出来事。
車内の人はまばらだった。私はロングシートの座席の端に腰掛けた。
目の前に座った男女、おそらく私より10歳ほど年上かな。男性は髭をたくわえ、女性はオールバックのポニーテール。個性的なファッションが2人ともよく似合っている。オシャレな感じだ。
シートに座った途端、男性がバッグからおもむろに何かを取り出した。それを開き、間もなく鯖寿司を食べ出した。
目を疑った。3度見くらいした。
うん、鯖寿司を食べている。女性の方は蓋を皿にして箸を使い食べている。
ここが食卓だと言わんばかりの表情で、当たり前に食べている。
おいしいとかおいしくないとかを話すこともなく、それはそれはもう、普通に食べている。
ちなみに新幹線や特急列車ではない。東横線の各停だ。
段々、不思議に思う自分が異常なのではないか、ここはこの2人の食卓であり、ここに入り込んだ私が無粋なのではないかと思えてきた。それくらい当たり前に食べている。
小さな鯖寿司ふたつは5分足らずで食べ終わった。
男性がもうひとつのパックを出した。
穴子や帆立の寿司が5つ程度並んでいる。
ここは本当は食卓か、寿司屋か、イートインコーナーなのではないかと思ってきた。
一カンを一口で頬張る2人。表情は変えず黙々と食べる。
「もう1パックいっちゃう?」という確認もなかったということは、車内で2パック食べることは2人の中で決定事項だったのだろう。いつ相談したんだろう。
東横線の車内で寿司を食べるという決定事項を2人が擦り合わせるまでの過程、すごく興味深い。
そのパックも程なくして食べ終え、なれた手つきでゴミをまとめ袋にしまった。ペットボトルのお茶を飲む2人。
今電車に乗ってきた人は、まさかこの2人がさっきまで寿司を食べていたなんて思わないだろう。
どうして車内で寿司を食べたんだろう。
なぜいまここで食べなければならなかったんだろう。
思いを巡らせていると、ある記憶が蘇った。
高校生の時、通学路だった駅ビルの地下のベンチで、ファンタグレープを片手に、目の前にあるKALDIで買ったのであろう匂いが強いポテトチップスを一心不乱に食べている人を見かけた。
非常識だなあと思いつつ、その人のことが羨ましいとも思った。
人生を楽しんでいる。食べたいものを食べたい場所で食べている。
私は人の目を気にしてできない。その頃は1人でお弁当を食べることもできなかった。
(迷惑をかけないという最低限の常識は持ちたいが)人の目を気にすることで損をすることは多いんだろうなと感じたことを覚えている。
あの男女が会話を交わさず寿司を食べていたのは、ノーマスクでの飛沫を懸念したのではないだろうか。
黙って食べることで、車内で寿司を食べるという行為が悪にならないよう働きかけたのではないか。
人の目が気にならないほど熱い情熱があったのではないか。
もしかしたら一秒も鮮度を落としたくなかったのではないか。
どちらにせよあの男女は、2人が最も望むモチベーションで寿司を食べることができたんだろう。
そして目の前で見ていた私はそれを不快に思わなかった。
あの2人の勝ちだ。
今日の一曲
高橋優/駱駝