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【エッセイ】君たちは再々履を経験したことがあるか? ー再々履への道編ー
前回の話はこちら
アドバンテージ0からの学習がどれほど難しいのか学んだ私は割と馴染みがある言語の授業を受講することにした。
韓国語である。
「韓国語なら日本語と似てるし、普段から韓ドラ見てるから楽勝でしょ。」
と、たかを括っていた。
私は初回の授業でその認識を改めることとなる。
初回の授業は自己紹介がメインであった。
「自分の名前と、あと韓国に関して興味があることについて一言お願いします。」との指定があり、前の席に座る人から順に自己紹介をする流れになった。
何を話そうかなと考えているうちに一番最初の自己紹介が始まった。
「○○(自分の名前)です。好きなKpopグループは○○で、その中で○○を推しています。」
へー。さすが韓国語を選択するだけある。好きなんだな。私が昨年選択したスペイン語の受講者たちは私を含め皆、スペインと言ったらパエリアだよね。くらいの知識しかなかったのでこの感じはなんだか新鮮である。続いて次の生徒の自己紹介が始まった。
「○○です。韓国のオーディション番組を見るのが好きで、今は〇〇(オーディション番組の名前)を見ています。」
さらに自己紹介が続くと、ほぼ全員が自分が好きなKpopアイドルのグループ名や名前、そうでないとしたら韓国の俳優の名前を挙げていた。
あれ?もしかして韓国語を選択している子たちって相当韓国が好きな人たちばっかりなのか?私ってこの中で一番韓国に疎いのでは?早速実力の差を実感しつつ私の自己紹介の番が回ってきた。
「えーっと、〇〇です。よく韓国ドラマを見ていて、韓国料理も好きでたまに食べます。よろしくお願いします。」
この中で一番浅い自己紹介をした自覚がある。仕方がない。韓国ドラマをよく見ているのは嘘ではないが、Netflixでランキング入りしているような超有名なものをなんとなく見ているくらいだったし、俳優さんや女優さんの名前を意識して見ていることなどなかったのである。詳しい作品名や俳優の名前など、パッとは出てこない。韓国料理だって、正直そんなに詳しくない。
そしてこの「好き」の熱量の差は、如実に成績に表れることとなる。
そもそも基礎の時点で違っていたのだ。私が全くハングルが読めないというところからスタートしていたのに対して、推しの言葉を少しでも理解しようと努力し、最初の時点である程度聞き取りや読み書きができる段階の子も少なくなかった。
案の定、韓国語の担当教員も毎授業で全員のことを指名するスタイルだった。(ストレスで禿げそうだった)去年のスペイン語は私と同じくらいモチベーションが低い子も何人かいたのだが、今回はそうではなく先生が指名したら大体の子は答えられていたので、そのことがより私のことを苦しめた。実力の差がはっきりと可視化されているため、ただでだえ低いモチベーションは下降をたどる一方だった。
そしてもう一つ私が再々履の道をたどることなるきっかけとなる出来事が起こっていた。再履であるが故に起こる出来事である。
授業の初日。大学のポータルサイトで授業が行われる教室の場所を確認し、いざ教室へ入った時である。
「教室ここで合ってますよね??」
これから一緒に授業を受けるであろう後輩に話しかけられた。
「はい、ここで合ってると思いますよ。」
そのまま空いてる、後方の席に座ろうとした時、
「あ、隣いいですか?」
あ、これ私と仲良くなろうとしてるぞ。まずいな、、
いや、嬉しい。嬉しいは嬉しいのだ。ただ一つ、大きな問題がある。私と彼女とは学年が違うのだ。私が二年生で、彼女が一年生である。たかが一年、されど一年である。歳を重ねるごとにその差異は些細なものとなっていくであろうが、二十歳付近の私たちにとって一年という学年、年の差は確かな壁となって現れるのだ。私としては問題ないが、それを知れば彼女の方が気まずい思いをしてしまうのではないだろうか。そして気まずいと思われてしまった私の方がむしろ気まずい。
彼女は完全に私を、自分と同じ入学したてのピチピチの一年生だと思っている。
いや、自分が二年生で再履修者であると言うことは、言わなけれなバレないのでは、、?
私は覚悟を決めることにした。よし。私はこの一年、この授業で一年生を演じよう。女優になるんだ!!と、意気込みを固めた。
そして数分後、授業の担当教員が教室へと入ってきた。
「はい。韓国語、初回の授業を始めます。まずは出席確認します。えー、○○(私の名前)さん。」
え?まじで?完全に盲点だった。
そう。再履修者は大体、名簿の一番最初または最後に名前を置かれる。私はこのことを完全に忘れていた。私の苗字はあ行ではない。つまり点呼でトップバッターになることはまずない。私の名前が点呼された後は、通常通りあ行から順に名前が呼ばれていった。それは私がこのクラスで唯一の再履修者であることを意味していた。
隣に座った子は初日の時点では気づいていなかったようだが、週が経つごとに私が二年生であることを確信したのだろう。徐々に心の距離が離れていくのを実感した。
そんな様子であるから、私は一年目の時は違い、韓国語の授業に行くこと自体がしんどくなってしまっていた。そうして私がとった行動は、「授業に行かない」である。
これは本当に後悔していると同時に反省している。授業に行かないということは、単位を得ることは絶対にないということである。授業にさえ行っていれば、単位取得の可能性を少しでも上げることができたというのに。全くもって愚かな選択である。
そうして成績発表の日。分かりきっていた成績を確認するためにパソコンで成績が表示されているページを開くや否や出てきたのは
韓国語“不可”
の文字である。
もう自棄になった私はその画面をスマホで撮影し、インスタのストーリーズに写真と共にこう投稿した。
#再々履さんと繋がりたい
友人たちの反応は想像以上で、普段全く関わりがないような人からも「いいね」が届いた。
きっと、人の不幸は蜜の味。