《エッセイ》届かない吊り革~冷めた大人たち~
※こちらの記事はエッセイです。
吊り革が伸びたらいいのに──。
クリスマスシーズン、夕暮れ。
大都市からの帰り電車は、人が多い。
私は幸運にも、一番端の方の座席に座ることができた。
各駅停車なので、止まるたびに車内に人が流れ込んでくる。
その中に小学生男児はいた。
冬なのに短パンで膝を出し、小さな体で車内奥の方にまでやってきた。
私の目の前に手さげ袋とお弁当箱を持って狭そうに身を縮めている。
席を譲ろうか迷った。
しかし、
「(まぁ、この子は私学だろうし、社会経験なのかな。)」と考え、
スマホに目を戻し、一駅分そのまま座っていた。
だが、どうにも小学生男児がキョロキョロしているではないか。
怪訝に思い、周囲の状況を確認する。……なるほど。
男児の後ろに立つお兄さんの大きなバッグが、男児の後頭部に当たっている。
続いて、そのお兄さんの一つとなりのお姉さん。
買い物帰りだろうか、床に置いた大きなショッピングバックが男児の足場をより狭めていた。
なんてやつらだ──!!
私は次の停車中にこっそりと男児に席を譲った。
「あっ、ありがとうございます。」
慌てて男児がお礼を言う。
私はというと、とりあえず微笑んでおいた。マスク越しで見えたかどうかは、謎である。
……で、だ。
立って吊り革を掴んだとき、気が付いた。
「(そうか、これじゃ届かない。なんてことだ!!)」
小学生男児は、吊り革に手が届かない。
だから、満員電車でも、電車がどれだけ前後左右に揺れても、足で踏ん張るしかない。
そのことに、周りの大人たち(私も含め)は気付いていない……!
あぁ、吊り革が伸びたらいいのに。
電車で席を譲るというのは、ちょっとした勇気がいる。
今回は、譲れて良かったなと心底ホッとした。
あの小学生男児の中に、社会へ、ひいては大人への希望が薄れぬようにと願うばかりだ。
私も、これからも周囲に気を配っていきたい。
卒塔葉しお